コンラッド医師らは何とかして少年の命を救うため、当時注目され始めていた「ミルテホシン(miltefosine)」という治療薬を使うことにしました。
殺人アメーバに対抗する「新たな治療薬」を求めて
ミルテホシンは元々、熱帯の寄生虫によって引き起こされる病気(リーシュマニア症)の治療に使われてきた抗菌薬です。
しかし研究で、ミルテホシンがフォーラーネグレリアに有効であることが示されたため、PAMの治療薬として使われるようになりました。
そしてミルテホシンを投与した結果、少年は最悪の危機を脱することに成功したのです。
ただ何とか一命は取り留めたものの、少年はまったくの無傷ではいられませんでした。
退院後、自力で呼吸ができるまでに回復していますが、それ以外のことはほとんど何もできなくなったといいます。
数カ月のリハビリの後に一部の運動能力が回復しましたが、家族のサポートがなければ日常生活が難しい状態が続いています。
それでもミルテホシンにPAM患者の命を救う効果があることを確認できたのは大きな成果でした。
少年がPAMに感染したのと同じ年、米アーカンソー州で13歳の少女がフォーラーネグレリアに感染したのですが、彼女もミルテホシンの投与で回復しています。
しかも少女の場合は半年間のリハビリの後、身体機能の大部分が回復しました。
加えて、2016年にも米フロリダ州の16歳の少年がPAMに感染し、ミルテホシンの投与で一命を取り留めています。
致死率ほぼ100%のPAMで、これだけの命を救っているミルテホシンにはやはり大きな効果があると言えるでしょう。
しかし一方で、医師たちは「ミルテホシンには腎臓および肝臓の機能に有害な副作用を及ぼす可能性が高く、安全面に懸念すべき点がある」と話します。