株価上昇率の差は自社株買い資金力の差
私は巨大企業のほうが株価パフォーマンスがいい最大の理由は、巨大企業は潤沢な自社株買い資金を持っていることだと思います。
自社株買いというのは、経営陣が自社の株を一般投資家から買い入れることによって、流通中の株数を減らして「1株利益が上昇した。すなわち利益成長があった」と見せかけ、かつ自社が買い入れ価格を指定したより下の価格では株を売らせないという露骨な株価操縦です。
このグラフをすぐ前の設備投資のグラフと見比べていただくと、同じグラフに貼り付けるラベルを変えただけではないかと思うほど、よく似たパターンを描いています。投資や自社株買いに回せる資金が潤沢な企業ほど株価も上がるというわけです。
アップルが示す「金持ち企業」の退廃じつは、史上初の時価総額3兆ドル企業になったアップルは、自社株買いでも巨大ハイテク各社の中でさえ突出した存在です。
アップルが積極的に自社株買いに取り組むようになったのは、今から10年前の2013年でした。その後の10年間でアップルが自社株買いに費やした費用は5880億ドルで、S&P500採用銘柄中492社の時価総額はこの数字より小さいのです。
こうしてアップルは流通中の株式総数も約4割削減して、景況や自社製品の好不調にかかわらず着実に1株利益を伸ばしつづける企業という虚像を市場関係者の間で定着させたのです。
そのとがめはふたつのかたちで現れました。万年割高株となってしまったことと、新製品・新サービスの開発における独創性の喪失です。
この上中下3段組のグラフは、株式市場に関わりを持っていらっしゃる方なら、どなたでも「これは買えないね」とおっしゃる割高さだと思います。とくに株価売上高倍率が6~8倍の範囲に定着してしまったのは異常です。
売上を全部株主に還元したとしても株を買ったときに払った資金を回収するまで6~8年かかるわけで、売上高当期利益率が100%などということはあり得ない以上、アップル株を買った人が配当で投下資金を回収しようとしたら最低でも20~30年はかかることを意味します。
さて、新事業・新製品・新サービスにおける独創性の喪失ですが、まず次の図表の上段グラフに地味に出ています。
過去3四半期連続で前年同期の売上を下回っているのです。何かひとつでも消費者が「これはおもしろい」と飛びつくような斬新な事業、製品、サービスがあれば、ここまで売上が停滞することはなかったのではないでしょうか。
そして、同じことをもっと悲劇的に現しているのが、今年のイチ推しはフェイスブック改めメタが入れこんでメタメタやられた醜い現実を見せないための遮眼帯、メタヴァースのモノマネ商品だったという事実です。
私はアップルが世界に果たした最大の貢献はiポッドとiチューンズストアの組み合わせによって、CD1枚を丸ごと買わずに好きな楽曲だけバラで買えるようにしたことだと思っています。
その結果、2~3年スタジオに籠もってゴテゴテ電子的な装飾音で飾り立てたCD1本が大ヒットすれば一生食っていける世の中ではなくなって、大衆音楽がスタジオ録音再生芸術からライブパフォーマンスに戻ったのはすばらしいことだからです。
そのアップルが、ここまで落ちぶれ果てるとは・・・・・・。やっぱり、人間だけではなく企業も、ムダに大金を貯めこんではいけないのだと思います。
皮肉なことに、連邦準備制度による連続的な利上げは、当面アップルやマイクロソフトの優位をさらに強めるでしょう。借金で自社株買いをしてきた企業の中で、営業利益率が借入金の金利を下回る企業は、今までどおりに自社株買いをすることはできないだろうからです。
ただ、ここまで巨大ハイテク企業一本かぶりの相場で「やはり巨大ハイテク企業はあまりにも割高だ」という認識が広まったら、米株市場には大きすぎる穴を埋めるどんなテーマも見当たらないでしょう。
もうひとつの懸念要因は家計債務米株市場の崩壊より早めにやって来そうなのが、家計債務の肥大化による個人破産の激増です。次のグラフをご覧ください。
財務省債があまりにも大きなノイズを出しているので目立ちませんが、家計部門の新規借入額が非金融企業とほぼ肩を並べるほど大きく、また過去最高だったサブプライムローン膨張期並みに膨らんでいます。
もっと怖いことに、今回の個人家計借入の増加は、比較的金利の低い住宅ローン中心ではなく、正真正銘高利貸し水準の金利を取るクレジットカード債務が中心になっていることです。
もちろん、増加額で比べればいちばん大きかったのは住宅ローンの6270億ドルです。しかし、これは総額12兆ドルの中の6000億ドル強なので、パーセンテージにすれば5%増えた程度にとどまっています。