この実験では参加者に対し、「パーキンソン病による発話障害を負っている人々が何と発音したかを書き留めてください」と指示してタスクに取り組んでもらいました。
それぞれの音声サンプルには簡単な単語のみが録音されており、その中に参加者には内緒で、ジョニーとレナータの発音を紛れ込ませています。
その結果、参加者たちはジョニーとレナータの音声がチンパンジーであることにまったく気付くことなく、彼らが「ママ」とちゃんと発音していることを聞き分けたのです。
これらの結果を踏まえて、研究者らは「これまで類人猿の発話能力は過小評価されてきましたが、チンパンジーのような少なくとも一部の類人猿は、ヒト言語の発声に必要な生理学的システムや脳の神経回路を備えていると考えられる」とまとめています。
こうした研究報告に対しては、この証拠だけでチンパンジーが言語を話しているというのは大げさではないか? オウムの方がもっと上手く発音するだろうが、と考えるかもしれません。
しかし、今回の報告で重要なのはチンパンジーが言語を理解して操っているという意味ではありません。
人間が使う言葉とは、音節の生成(子音と母音の組み合わせ)によって作られます。これには唇や喉、顎などの動きを総合的に組み合わせて制御する必要があり、そのための神経回路を脳が持っていなければそもそも音節を利用することは不可能です。
これまでの研究では、多くの学者がチンパンジーにはそもそも音節を作るための脳の神経回路がないと考えていました。
そのため今回の研究者たちは、これらの動画の証拠を元に「チンパンジーのような一部の類人猿は、ヒト言語の発声に必要な生理学的システムや脳の神経回路を備えている」ことを示そうとしたのです。