農家が灌漑設備や農機を利用しやすくする工夫
小規模農家は雨水に頼った農業をおこなっており、用水路やため池、ダムによる灌漑がおこなわれている割合は低い。灌漑がないと、1年のうち収穫できる回数が限られるだけでなく、降雨量が多くても少なくても収穫量に影響が出る。資金繰りに苦労する小規模農家は農機を購入する余裕がないため、耕地面積あたりのトラクター使用台数も低くとどまっている。ケニアのSunCultureは太陽光発電式の灌漑用ポンプを製造し、スプリンクラーや蓄電池とセットにして、小規模農家に従量課金制(PAYG)で提供している。いわば農業用水のサブスクだ。これによりポンプの購入資金がなくとも、農家は灌漑農業を開始できる。同社は2013年の創業以来、累計約5,000万ドルを調達している。
ナイジェリアのHello Tractorは、トラクターなどの農機の貸し手と利用者をつなぐマッチングプラットフォームを提供している。農機を借りたい農家は、アプリに表示される近隣の貸し手を選び、時間単位で借りることができる。農機を買うことはできないが、時間単位の費用なら払える農家に向けて、利用の障壁を下げる工夫をしている。同社はJohn Deereブランドで知られる米国の世界大手農機メーカーDeere & Companyと提携しており、2022年には出資も受けた。アフリカ農家を守る農業保険も誕生
灌漑設備やビニールハウス、農機などを使わない小規模農業には、天候の変動に大きく収入が左右されるというリスクがある。干ばつで雨が降らなくても、逆に大雨が発生しても、圃場や農作物に被害がでて収穫量が変動し、販売する際には市場での価格変動の影響も受ける。そこで必要になるのが農業保険だ。
ケニアの農業保険スタートアップPula Advisorsは、こういった変動に対する農家の脆弱性に備えるための保険を提供している。地域ごとに過去の降雨量や気温、収穫量のデータを蓄積し、収量が一定以上下回れば自動的に保険が適用される。興味深いのは、同社が直接小規模農家に保険を提供するのでなく、小規模農家に対して種子や肥料などを提供している政府、農業組合、援助機関、民間企業と組むことで、これらサービスの一環として収量保険を提供している点だ。
小規模農家に農業保険を提供する上での障壁のひとつは「保険の必要性や複雑な仕組みを理解してもらい、あらかじめ費用を払ってもらうこと」であるのだが、農業組合などをアグリゲーターとして間に挟むことで、小規模農家に保険の複雑な仕組みを理解してもらう工程をスキップし、手を煩わせることなく保険を提供しているのだ。
同社は今年4月のシリーズBラウンドで2,000万ドルを調達したばかりで、2015年の創業以来の調達額は3,000万ドル弱に達している。
マリのOKOは、小規模農家向けにモバイルベースの作物保険を手頃な価格で提供している。携帯電話を持っている人なら誰でも利用でき、保険金の請求・支払いは衛星データと画像を使用して自動化されている。コートジボワールとウガンダでも事業を展開しており、2017年の創業以来、調達額は200万ドルを超えている。