■正体不明の奇妙な金属片
ともあれ滝田はこの金属片の分析を試み、酸や水酸化ナトリウムに浸してみた。物体を30%の塩酸に投ずると30秒から1分で発泡し、1分半で塗料が遊離したものの、完全には溶解しなかった。30%の水酸化ナトリウム液に浸けると直ちに発泡し、塗料はすぐに溶解し、試験管で加熱すると一分程度で溶解し、残滓ができた。しかし、この程度の分析で詳細な成分が判明するはずもなく、滝田は採集した金属片の一部を荒井に送ったのだ。
受取った荒井欣一は、会員の一人で、後にSF同人誌『宇宙塵』を発行する柴野拓美を伴って、さっそく東京都庁内都立工業奨励館(現在の都立産業技術研究センター)を訪れ、金属片の分光分析を依頼した。
9月19日になって、工業奨励館の最初の分析結果が出た。それによると、物体にはアルミ、鉄、銅、珪素の他、1~10%の鉛が混入しているとのことであった。
ここで荒井は疑問に思った。アルミは非常に軽い金属であるのに対し、鉛は重金属である。通常アルミ箔には鉛を混ぜたりせず、アルミ箔の製造に際しては、鉛は不純物とされている。
そこで、会員の一人に現地調査を依頼するとともに、アルミ箔製造の国内大手である日本軽金属株式会社に問い合わせた。すると、「本社ではアルミ箔に鉛は入れない」との返答を得た。
ただし、工業製品として製造する際にはアルミに鉛は混ぜないとしても、技術的には可能かも知れないと考えた荒井は、今度は大岡山にある東京工業大学金属学教室の中村正久氏を訪ねた。すると中村は、アルミには0.2%以上の鉛を混ぜることはできないと述べた。
その後、工業奨励館からは、さらに詳細な報告が届いた。
それによると、鉛が検出されたのはアルミ箔に薄く付着していたビニール状の皮膜内で、粒状に多数点在していた。ただし、ビニールなどに鉛が混入すると完全に溶けて透明になるはずだがそうなっていないとのことだった。またアルミ箔の片側には有機染料が塗布してあり、微量であるが高価なバナジウムやニッケルが検出されたという。奨励館で分析を担当した松下技師は、このようなものがアルミ箔から検出されることはあまり例がないとも述べた。
工業大学の方からも、鉛の含有率は重量比で12.9%だったという追加報告が届いた。
他方荒井は、日本におけるロケット研究の草分けである糸川英夫にも問い合わせた。糸川の見解は、この金属片はロケットの発射実験等に使用する金片と非常によく似ているということだった。
ロケットの打ち上げ実験においては、打ち上げと同時に細かな金属片をまき散らし、それをレーダーで追うことにより軌道を正確に把握するのである。糸川は、このときばらまくものに似ていると考えたのだ。
さらに糸川は、ビニール被覆のアルミ箔も国内では生産されないかも知れないが、アメリカでは使っている、と述べた。
そこで荒井たちが訪れたのが、駐日アメリカ大使館である。