より自由な世界で「ものづくり」をしたかった

―――田丸さんはなぜショートショートを書こうと思ったのでしょうか?

田丸さん:いくつか理由はありますが、大学の工学部に通っている中で、科学法則に縛られることを息苦しく感じる時期がありました。

ものづくりが好きで理系の道に進んだのですが、何かを投げたら重力の法則に従って落ちるだけじゃなく、念じたらそれが浮かんでもいいという、より自由な世界で何かを作りたいと思うようになったんです。要は、自分が本質的にやりたいのは「つくること」であり、現実世界か空想世界か、どちらのフィールドでそれをおこなうか、ということでした。

ショートショートを書き始めたのは高校2年のときで、友人がおもしろいと言ってくれたのがきっかけでした。大学に進んでから趣味としてショートショートを書いているうち、この活動は自分の脳に合っているなと感じるようになりました。

そして、先ほどのような流れで、プロとしてこの道を進むことを決意したという感じです。

―――同じ「つくること」でも、工学部から小説執筆とまったく別のところにいきましたね。何かをつくりたいという方は多いですが、田丸さんのように、自分が本当につくりたいものにたどり着くためには、どうしたらよいのでしょうか。

田丸さん:「自分の脳がどう反応するか」を、ぜひ観察してみてください。脳から快楽物質が出る瞬間を、洗い出して言語化することがおすすめです。

ヒントは過去にあると思っていて、自分がすごく好きだったものや、時間を忘れて取り組んだこと、今思い出しても良い意味で心がうずくものを思い返してみてください。それらをどんどん言語化して深掘りをすると、共通点が見えてくる可能性が高いです。

それをもとに、自分の人生を費やしてでも取り組みたいものを見つけてみてください。職業なのか、仕事の内容なのか、今ある仕事なのか。もしかすると、まだない仕事かもしれません。

また、現在の自分と向き合うには、脳にいろんな刺激を放り込んで反応を見るのがいいです。要はいろんな体験をして、「これはおもしろいな」「ちょっと違和感があるな」などと、自分の脳の反応を観察してみてください。

あと、自分の五感のどれが強いのかを把握することもおすすめですね。

たとえば、最近増えているオーディオブックが好きな人は、おそらく聴覚が強いので、聞いて覚えたり、聴覚表現が得意だと思います。

これも結局、自分の脳と向き合う作業です。自分の脳の特性を突き詰めて把握すると、自分に合った表現方法を見つけることができるのではないかと思います。