観衆が見守る中エッフェル塔から飛び降りる
ライヒェルトが実験環境に選んだのがエッフェル塔だった。地上から57メートルに位置する1階デッキを利用しようと考えたのだ。そこで、パリ警察にエッフェル塔の利用許可を求め、1912 年に許可を得た。
同年2月4日、ライヒェルトは友人だけでなくジャーナリストやカメラマンも集め、大勢の観衆の前でパラシュートスーツの実験を行った。午前7時にエッフェル塔に到着したライヒェルトは、ダミー人形を持っていなかった上に、自らパラシュートスーツを着用していた。「私は自分の発明の価値を証明するつもりです」と宣言し、自分が飛び降りることを説明した。
友人らも、その場にいた警備員も、ライヒェルトに飛び降りないよう説得しようとした。 しかし、ライヒェルトは耳を貸さなかった。このときの様子について、観衆の「誰もが彼(ライヒェルト)が自殺するだろう」と不安がる中、「彼(ライヒェルト)だけが幸せそうに見えた」と翌朝のル・マタン紙は報じた。
観衆が見守る中、ライヒェルトは午前8時22分にエッフェル塔の1階デッキに到着した。新聞を破って風の向きを調べ、地面を見下ろし、友人らに目を向けた。40秒ほどためらった後、「また会いましょう」と言って飛び降りたのだった。