はじめに

 千円、5千円、1万円紙幣が一新される。なお、前回2004年の刷新時は、2002年8月2日発表、2004年11月1日新紙幣流通開始であった。現在の紙幣は2024年までに20年間使用されることとなり、その後変更する運びとなるが、この変更に伴ってさまざまな需要が発生している。そこで本稿では、約20年ぶりとなる紙幣デザインの刷新、2024年の使用開始に向けて、変更の目的やこれまでの経緯、経済効果、またキャッシュレス化が進む現代で過去の刷新と異なる点はあるのか、等について解説する。

一般的な偽造防止対策に加え改元を契機とした可能性  新紙幣の一般的な目的や動機としては、偽造防止とされている。このため、今回の刷新も最大の目的は偽造防止であることが推察される。しかし、前回の紙幣刷新は、発表が2002年8月に対して流通開始が2004年11月であり、発表から紙幣刷新までの期間が約2年だった。これに対して、今回は発表が2019年に対して紙幣刷新が2024年となり、発表から刷新までの間隔が5年もあり、通常より長い印象を受ける。この背景として、恐らく改元と発表時期を合わせる意向があったものと推察される。

 また、今回の紙幣刷新の別の狙いとしては、「タンス預金」のあぶり出しが隠れていることが予想される。というのも、こうした現金退蔵は資金洗浄や租税回避の温床になりうるとされているからである。そして、日銀の資金循環統計によると、2023年12月末時点で家計部門が保有する現金が、前年比▲0.8%の108兆円となっており、高齢者を中心に自宅で現金を保管する「タンス預金」は依然として高水準にある。

 事実、前回の新紙幣刷新時には、新紙幣刷新の公表から流通開始までの期間に、日銀の資金循環統計における家計部門が保有する現金の増加率が低下していることが確認できる。当時は民間銀行に公的資金投入が決まる等、金融システム不安が緩和に向かった時期と重なり、現金退蔵の動機が低下した要因も考えられるが、少なくとも政策当局側としては、紙幣刷新の要因も少なからず寄与したと考えている可能性がある。

政府が新紙幣を発行する隠れた狙い…小売店など民間事業者は巨額コスト負担
(画像=『Business Journal』より 引用)