講座では「みんなで何かを作る感覚」をやりたい

―――お聞きしていると、ショートショートの魅力を一方的に伝えるというより、インタラクティブな活動をされていると思ったのですが、双方向的であることは意識してらっしゃいますか。

田丸さん:一人が一方的に発信するだけではなく、「みんなで一緒に盛り上げたい」「ともに作っていきたい」という思いは強くあります。よく言うのが、泥遊びを一緒にしている感覚ですね。

小さい頃、砂場や庭などで友だちと川やダムを作ったりしたと思うんですが、みんなでやるということがショートショートでもできたらなと思っています。

―――ショートショートの執筆メソッドを公開することについて、抵抗はなかったのでしょうか。

田丸さん:全くなかったです。むしろ、やりたい、やらねばという思いしかありませんでした。

「ライバルや仲間を育成して大丈夫なんですか」と心配してくださる方もいるのですが、僕自身はむしろ仲間を作って、業界としてみんなで盛り上げていかないとダメだと思っているんです。

僕の活動でショートショートや僕のことを知ってくださった方が、そこで終わってしまっては意味がなくて。どんどん新しい書き手の方や、読み手の方に出てきてほしいと思っています。

夏目漱石の『坊っちゃん』の舞台となった愛媛県松山市が主催の「坊ちゃん文学賞」の審査員も務める

講座では「自分にもクリエイティビティーがあったんだ」と気づく人が多い

―――「ショートショートの書き方講座」は、企業でも開催されているということですが、どのような反響が多いのでしょうか。

田丸さん:まず、「自分でも書けたんだ」「私にもクリエイティビティーがあったんだ」というようなお声をいただくことが多いですね。普段の仕事では分からなかった、同僚の才能に気づくことができたというお声も多いです。

企業向けのワークショップ「ショートショート発想法」では、普段の90分講座をその企業や業界に沿った内容にアレンジし、後半には、60分ほどの読み解きのパートも加えて、新しい商品やサービスのアイデアを考えてもらうところまでをおこないます。

僕の講座は部署・役職関係なく、いろんな方に受けてもらうので、クリエイティブな役職でない方でも「自分にもクリエイティビティーなことができるんだ」と気づいてもらえることが多いです。

少し前には、みずほ銀行の頭取をはじめとして、みずほフィナンシャルグループの4社長さんにもワークショップを受けていただくという貴重な機会をいただきました。経済界を代表するようなみなさんが素敵なショートショートを書いてくださり、とても刺激的な時間でした。

ほかにも、たとえば、ある保険会社さんで実施させてもらったときは「保険の商品・サービスはすでに開発しきったと思っていたけれど、まだまだ新しいアイデアが出てくることに気づきました」という感想をいただき、ありがたい限りでした。

このワークショップを通じて実際に開発が進んでいたり、僕のメソッドを、未来を考えるためのワークショップに取り入れて展開しはじめたという報告をいただいたりしています。

この企業向けのワークショップの内容をまとめた『ビジネスと空想 ~空想からとんでもないアイデアを生みだす思考法~』というビジネス書も出ていて、メソッドをすべて公開していたり、アイデアや発想するということについての考え方などもまとめていたりしますので、よければお手に取ってみていただけるとうれしいです。

―――ちなみに、ビジネスとの接点という観点で作品集を手に取るとしたら、どの一冊がオススメでしょうか。

そうですね、たとえば著書に、1冊を通じて猫をテーマにした『マタタビ町は猫びより』という本があります。頭にパトカーの回転灯をつけた猫のポリスがいたり、うどん屋の大将が猫だったりと、直接的にはビジネスと全然関係ないのですが、もしかすると「猫」という1つの題材に対するアプローチや膨らませ方は、ビジネスのアイデアを考える際の切り口という観点から参考にしていただけるかもしれません。