■狙われた女性たち
ダリヤの被害者の多くは若い女性であったという。ニコライを奪った女を彷彿とさせたからだ。彼女は「仕事を怠けた」といったささいなことで言いがかりをつけ、次々と女性たちに拷問を加えて殺害したのだ。妊婦や少女を殴って骨折させり、裸のまま凍える寒さの森の中に放置したり、体に熱湯をかけたりと、ダリヤは残忍な方法で哀れな犠牲者たちを次々と殺害した。
最終的な被害者数は138人におよぶといわれているが、そのほとんど全員が女性とされ、男性は3人とかなり例外的だった。ダリヤは粗相をした男性本人を拷問にかけるより、その妻を身代わりにして殺すことを好んだのである。ある男性は、3人もの妻を立て続けにダリヤに殺されている。
あまりにも冷酷で理不尽な仕打ちに、農奴たちは何度となく告発を試みた。しかし相手は大貴族、しかもダリヤの亡夫グレブは、時の皇帝エカチェリーナ2世の愛人セルゲイ・サルトゥイコフの叔父にあたる。このセルゲイは、エカチェリーナ2世の息子で後継者となるパーヴェル1世の父親だと噂されている人物だ。いわばダリヤは皇帝の身内だったのだ。
だが1762年の夏、ダリヤのもとから命からがら逃げ出した農奴と牧師がサンクトペテルブルクまでたどり着き、皇帝エカチェリーナ2世に嘆願を届けたのである。さすがに無視することもできず、エカチェリーナ2世はダリヤの逮捕と捜査開始を決定するが、これは農奴たちのためというよりは、むしろダリヤに無罪を証明する機会を与えるためだったといわれる。