「検察・裁判所の暴走」が続く、東京五輪談合事件公判
東京五輪談合事件については、昨年2月、テストイベント計画立案業務を受託した6社と各社担当者、組織委員会元次長の森泰夫氏が独禁法違反で一括起訴された後に、それぞれの被告会社ごとに裁判が分離され、公訴事実を全面的に認め昨年12月に有罪判決を受けた森氏以外は、全者が公訴事実を争って公判が続いている。
各社の裁判の中で、この事件での検察、裁判所の対応について重大な問題が次々と明らかになっている(FACTA2024年7月号【「認めないと部下を逮捕する!」/「五輪談合事件」衝撃の告白/検察官と裁判官が「暴走」】)。
自民党派閥パーティーをめぐる事件で、裏金議員に対する処罰で国民を失望させた検察が、普通に働く市民に対しては、裁判所を抱き込んで、謂れのない「独禁法違反事件」を仕立て上げ、逮捕・起訴して「人質司法」で自白を迫る、そういうやり方が、当たり前のように罷り通っているのである。
イベント制作会社株式会社セレスポ(以下、「セレスポ」という。)の専務取締役鎌田義次氏(今年6月の株主総会で退任し、現在は顧問)は、昨年8月、196日間の「人質司法」に耐え抜いて保釈され【東京五輪談合、セレスポ鎌田氏”196日の死闘”で明らかになった「人質司法」の構造問題】、その後、東京地裁で公判が行われてきた。
第4回公判の被告人質問では検察官が取調べで発した信じ難い発言が明らかになった【「小学校で宿題やらなかったでしょう!」上場企業役員の被疑者に女性検事が浴びせた言葉】。
7月12日の第7回公判で、弁護人最終弁論を行い、結審した。公判終了後、鎌田氏と主任弁護人の私とで、司法クラブで会見を行った。
昨年2月8日、独禁法違反で逮捕されたこと自体が、全く謂れのないものだったが、それ以上に、鎌田氏に対してその後検察・裁判所が行ってきたことは、異常というほかないものだった。それを知れば、多くの人が、「これが日本の刑事裁判か」と愕然とするであろう。しかし、それは、日本の経済社会で活動する国民すべてに、いつ降りかかるかもしれない「刑事処罰のリスク」そのものなのである。
「東京五輪談合事件」とは何だったのか多くの人が、元電通の高橋治之氏やスポンサー企業経営者が逮捕・起訴された「東京五輪汚職事件」と混同しているが、「東京五輪談合事件」は、それとは全く異なる事件だ。
本件は、東京オリンッピク・パラリンピック競技大会(東京オリパラ大会)組織委員会が、東京オリパラ大会の会場・競技ごとに総合評価方式の一般競争入札で発注したテストイベント計画立案業務に関して、入札参加事業者6社とその担当者、組織委員会大会準備運営第一局次長として同業務の発注を総括していた森泰夫氏を、独占禁止法3条後段の「不当な取引制限」の罪で起訴した事案である。
要するに、東京オリパラ大会のテストイベント計画立案業務の入札で、独禁法違反に当たる談合を行ったとして起訴されたのである。
しかし、実際は、一般人が想像する「公共工事をめぐる談合」のような、単純なものではなかった。
組織委員会の発注は、法的には「民間発注」であり、刑法や官製談合防止法は適用されない。適用されるのは、独占禁止法だけだ。そして、民間である以上、どのような方式で発注するかは、発注者が自由に選択できる。
東京五輪大会は、60もの競技がほぼ同じ時期に行われる世界最大のスポーツイベントであり、その26の会場で行われる競技すべてについて、穴を空けることなく、それぞれの競技についての過去の実績や競技団体との関係などに基づいて、実施能力のある事業者を選定する必要があった。
人気のあるメジャーな競技に応札が集まり、マイナーな競技にはどこも応札しない事態になる懸念があり、国内のスポーツイベントに関わる業務リソースをバランスよく配分して、業務に対応しなければ、大会を実施することができない。
しかも、スポーツイベントの大会運営は専門的な業務の組み合わせによって成り立つため、1社でやり切ることは難しく、各業務に精通したスタッフを揃える必要がある。そこで、普段は競合する企業間でも、「協業」することが必要になる。