■息子ファンの遺体が見つからない
アクセスの悪い峠道での大事故であるため、当局の本格的な対策が取られたのは事故発生から3時間がたってからのことだった。救急チームはほかのドライバーを救助して避難させ、危険な硫酸を吸収して中和するために現場に大量の石灰と砂をまいた。
そして現場検証が行われたのだが、一緒にトラックに乗っていた息子・ファンの遺体がないことを知らされることになる。目撃証言からこのトラックにはカップルと少年の3人が乗っていたことが何度も確かめられている。事故の20分前にも親子3人が乗るこのトラックが目撃されていた。
トラックの車内には玩具や、子供服、童謡のカセットなど少年のものと思われる物はいくつも見つかったが、少年の姿だけがなかった。大量に硫酸を浴びて完全に溶解してしまったという見解も浮上してきたが、法医学の専門家は、もし仮に遺体が完全に硫酸に水没したとしても3時間で消失することはないとして完全否定している。
捜索チームは警察犬やヘリコプターを使い、現場から半径18マイル(約29キロ)の範囲を数百人のボランティアを動員して徹底的に捜索したが少年の痕跡はただの1つも見つけることができなかった。
事故に関する奇妙な詳細も明らかになってきた。当初、トラックのブレーキには何らかの不具合があったと考えられていたのだが、詳しく調べたところブレーキには何の問題もなかったことが判明したのだ。さらに計器類に残されたデータを調べてみると、事故の20分以内に12回もトラックが完全に停止したこともわかってきた。停車していったい何が行われていたのか。