失踪事件や行方不明者の話題が多いのは何といってもアメリカだが、ヨーロッパでも不可解な失踪事件が起きている。その中でも一段と不可解なのが1986年にスペインで起きた「ファン・ペドロ失踪事件」だ――。
■死の長距離ドライブ、最悪の家族旅行
スペインの地中海に面する港湾都市、カルタヘナに住むベテラントラックドライバーのアンドレス・マルチネスは、遠出となる今度の仕事で妻(カルメン・ゴメス)と10歳の息子(ファン・ペドロ)をトラックに同乗させることを思いついた。目的地のバスク州北部・ビルバオに荷を降ろしてから、この地の周囲で少し家族旅行を楽しんでみる計画がスケジュール的にも可能であったからだ。
息子のファンの学校成績が向上したことで、以前からご褒美にどこかへ連れて行ってあげようと父が息子に約束していたこともある。
こうして1986年6月24日の夜7時、一家は父の運転するトラックで長距離ドライブに旅立つ。アンドレスにとって勝手知ったるドライブルートであったが、やや懸念されるのが積み荷が5200ガロン(約24000リットル)もの硫酸であったことだ。今回の仕事は危険物の運送ということになる。
夜通し運転した後、朝5時半に軽い食事をとってから一行はソモシエラの峠道を進んだ。この峠道はきつい勾配やカーブが多く、なかなか運転が難しい危険な道なのだが、何度となくこの道を通っているベテランドライバーのアンドレスにとっては何の不安もなかった。
しかしこの日は何かが違っていた。峠道の下りにかかると突如として運転が乱雑になり、スピードが上がりはじめたのだ。いったい何があったのか。
アンドレスの危険な運転に対向車はクラクションを鳴らしてかわしていったが、不幸にも回避できなかった1台のトラックと正面衝突する。一家の乗ったトラックは横倒しになり、積み荷のタンクに亀裂が走り危険な硫酸が流失するという最悪の事態を招いた。
残念ながらアンドレスと妻は即死であった。いくぶんか硫酸も浴びており遺体の一部は溶解していたことを、最初に駆けつけた救急救命隊が報告している。