地方タワマンの上層部を買う人々
それでは地方タワマンの上層部を買っているのは、いったい誰なのだろうか。地方タワマンの物件案内をみると、上層階は部屋が広めに作られているケースが多い。特に最上階はフロアに2戸から3戸程度の住戸しかなく、面積も100平方メートル(30坪)を超えるような仕様になっている。また販売価格も高層階にいくほど高くなり、一戸当たり1億円を超えることも珍しくない。
ある地方都市に講演のため出張した時の話だ。講演が終わって地元の複数の有力者との懇親会に出席した。この街では最近、大手ディベロッパーが手掛ける地上30数階建てのタワマン分譲が行われる予定で、すでにモデルルームもオープンし、街の話題を独占しているとのことだった。販売は順調との話だったが、地元の人たちの話題はもっぱら、最上階の住戸を誰が買うのかという点だった。
「やっぱり、あの部屋は○○会社の社長が買うのに決まっている」
「いやいや、俺は△△会社の会長が狙っていると聞いたぞ」
ここで名が挙がるのは、いずれもその地方を代表する会社のオーナーたちだ。オーナーはいずれも地元の出身で、多くは豪壮な邸宅を構えている。わざわざタワマンを買って引っ越すわけではない。彼らが買う目的は、ずばり「天下をとる」ことだ。地方のなかで自分が一番稼いでいる、あるいは地域のナンバーワン、名士であることの象徴としてタワマン最上階を買い求めるのだ。こうした人たちは「地方の豪族」とでも表現できようか。昔から地方の経済界で中枢を占め、政治にも口を出す存在だ。彼らのなかでは地域内における順位があり、それをめぐる思惑や争いが常にあるのだ。したがってタワマンの出現は「お山の大将」を自認する彼らにとっては誰が本当の大将であるかを争う、格好のゲームになっているのである。
街の中心部にそびえたつタワマンは、いわば本丸天守閣のような存在とでもいえようか。お城の天守閣から街を睥睨して自らのプライドを満たそうとするさまは昔も今も変わらないのかもしれない。