その点では「マスコミの沈黙」ということも、長きにわたって性加害を放置してしまった、そこへの影響は大きいと思います。マスメディアというのは人権侵害への監視ができる立場にある。この報告書でも企業の人権尊重というのは重要なのだと言っていますけど、マスメディアこそ、その立場に立てる。だからこそ高度の報道の自由が保障されている。そこの覚悟と自覚を問われているということだと思います」

水島 番組側でVTRなどであえて強調しなかった「メスメディアの沈黙」にコメンテーターの萩谷弁護士が触れ、マスメディアの報道の役割を強調した鋭いコメントでした。本来ならばマスメディアの人間、番組の顔であり、番組を進行するキャスターである大下アナが解説しなければならない役割のはずです。それをコメンテーターの一人である萩谷弁護士に言われてしまって、報道側の人間の代表としてスタジオにいたはずの大下アナの面目は丸つぶれになっていました。大下アナは責任をあまり実感していないのかもしれません。あっさりと次のような言葉で引き取りました。心なしかやや慌てたような幕引きでした。

「本当にメディアの沈黙ということで、今回もイギリスのBBCが報道したことがきっかけで国連の人権委員会(筆者註:「理事会」の誤り?)も動くことになって、ということですので、本当に私たちも健全な緊張感をもって、はい、いい方向に向かう。そのきっかけにしなければならないと思います」

水島 このあたりは報道の大ベテランであるはずの大下アナにしては、あまり自分ごととして考えている感じがないというか、かなり他人行儀な言い方でした。他局ではキャスター自身も「マスメディアの沈黙」については、反省する言葉を述べたり、今後の決意を宣言するようなコメントを述べたりするなどしています。それに比べると、大下アナの言葉はとても中途半端な感じでした。

 こうしたところを見ると、今回、これまでの「テレ朝の呪い」が完全に解けたのかと問われれば、はっきり「イエス」とは言えないものがあります。テレ朝にはジャニーズ問題を報道しにくい「何か」があるらしいことは、これまでのこの問題の扱い方からも明らかです。観察してみると「テレ朝の呪い」は情報番組だけでなく、看板ニュース番組である『報道ステーション』にも及んでいると感じています。こちらはさすがにニュース番組なので、その日に行われた記者会見などをまったく扱わないというわけにはいきません。少しは報道するのです。

 でも、ふだん他局を出し抜くスクープ報道を果敢に連発している『報道ステーション』にしては、かなり消極的というか精彩を欠いていました。番組独自に他の番組にはない証言を取材して放送するというような積極的な姿勢は見られません。NHKから鳴り物入りでテレ朝に移って看板番組を任される大越健介キャスターも、いつものジャーナリストとしての豊富な経験から繰り出す鋭いコメントを封印し、どこかギクシャクした感じを漂わせていました。そして、ようやく再発防止特別チームの記者会見の報道では、かつてない神妙な表情で「被害者の痛み」に言及したのです。