僕は間違いなく「陰キャ」です

ーーしんめいPさんは、ご自身を「陰キャ」だとおっしゃっていますが、そういった印象は受けません。そもそも「陰キャ」はインキャ/カゲキャどちらが正しい読み方ですか?

しんめいP:陰陽思想になぞらえて、僕は「インキャ」と読みます。さらに、違うといわれて嬉しいから、僕は間違いなく「陰キャ」ですね(笑)。

当初は「陰キャ/陽キャ」を軸に執筆しようと考えていたんです。「陽キャ」とのエピソードを全章で使うつもりでした。その「陽キャ」は中学時代の同級生。本当に僕は彼を憎んでました。僕が自分を「陰キャ」だというとき、その対になる「陽キャ」として、こびりついた邪悪な中学生のイメージのまま、彼が心にいました。

ーー特定の人物を取り上げることを避けようと構成を変えたんでしょうか。

しんめいP:切実な感情ではなくなったから無意識に忘れたのかも。ベースに怒りがあるから、書かなくて正解ですね。「陰キャ」「陽キャ」にこだわっていた自分は「化石」みたいなもので「本当に幻みたいなものだったな」とすら感じています。だから、「陰キャ」ではないという印象を持ってもらえたのかもしれません。

ーーその怒りや憎しみは、自責にもつながっていたのではないでしょうか。

しんめいP:ずっと布団でぐるぐる「陰キャ」「陽キャ」みたいなことを考えていることは2つにわかれた自分が永遠に争っているような感覚でした。

「陽キャ」を認めない。うらやましいと感じる気持ちを「いや、そんなわけない」と押し返す繰り返しです。でも、その押し返している対象がわからなくて、ただ黒いものが迫ってくるような、不快感があるだけです。

「陽キャ、ヤンキーがうらやましい」と認められたときに、いろんなことを頑張ってきたつもりだったけど「薄っぺらい人生」だと思えるようになりました。哲学に関心をもったことですら、ヤンキーとは違うことを誰に対してかもわからずに証明したかっただけじゃん、と。これでかなり楽になりました。そして、東洋哲学にその楽になった理由が説かれていたんです。

「リモート布団民」が生まれている?

ーー心が折れて、布団に閉じこもりたくなることはキャラを問わずあり得ますね。

しんめいP:感覚としてはみんな布団にこもってるとも思えます。そんなイメージを感じさせない人から「いや、俺も実はさ……」とカミングアウトされることがあります。

ーー平日は働いていても、週末に引きこもってしまう人もいそうですね。

しんめいP:さらにリモートワークが浸透して「リモート布団民」が生まれていると思います。無職だけでなく、ぐたっとしながら、なにかと闘っている人がいるはず。だから「自分だけかも」と不安に思う必要はないですよ。ゴキブリみたいに「1人いたら、100人はいる」はず。

ーー自分を責めたり、葛藤している人へメッセージをいただけますか?


<撮影:ヨシダショーヘイ>

しんめいP:今日、僕はこの取材に遅刻しちゃいました。家族と食事に出かけて、そこでお店の人と喋ったら本当に疲れてしまって。よく知らない人とのコミュニケーションはやっぱり消耗してしまいます。僕自身「まだ布団のなか」にいるのと変わらない状態です。

遅刻はいけませんが、布団に入っている状態は恥ずかしいことではありません。

無職であったり、引きこもったりしてしまうことを自ら「悪いこと」と決めつけてしまいます。でも、それは「しゃあない」こと。回復するために必要なことで、その悩んでいる状態は「自己対話」として僕には必要なプロセスでした。今でも、悩まなくなったわけではありません。だから、ぼちぼちやっていきましょう。

(後編・了)