■謎の失踪
空港での一件の後、クレイマーはどこへも電話をかけておらす、彼のクレジットカードも一切使われていなかった。
クレイマーのこの奇妙な失踪をきっかけに大規模な捜索と調査が開始されたのだが、クレイマーの部屋には本来FBIなどしか入手できないはずのO・J・シンプソン事件に関するビデオ映像があり、クレイマーがこの映像のビデオ分析に取り組んでいたことがわかってきた。
妻のジェニファーの証言では、失踪直前のクレイマーがきわめて妄想的だったことが報告されている。彼は当局に追われており、捕まれば連行されると妻に話していたという。
しかし、ジェニファーによればクレイマーには私生活の上で敵対的人物はおらず、犯罪や麻薬に関与したこともなければ、ビジネスでのグレーな取引などもなかったため、“追われている”というのはあまりに奇妙なことであった。
またこの時期に夫妻が父親を訪ねたときに、クレイマーは安いプラスチック製の子どものオモチャを父に渡して、それが不思議な装置であると説明したこともあったという。クレイマーはオモチャを渡しながら父に向って「これですべて大丈夫です。あなたが理解していないことはわかりますが、これで大丈夫です」と説明したのだった。
そして失踪の日から2週間後に、行方不明のクレイマーから自宅の妻に1度だけで電話があったという。そこでクレイマーは具体的な話は一切せず「ハロー、ハロー」と一方的に挨拶を続けてから電話を切ったということだ。
その後もクレイマーの捜索は何年も続いたのだが、なぜ電話をかけたのか、失踪前の数日間の彼の奇妙な発言や行動が何を意味したのか、または彼がどこに行ったのかについての手掛かりは何一つ得られなかった。
ガレージセールや電気店などでクレイマーを目撃したという報告はいくつかあったが、いずれも裏付けは取れず、ニュースやテレビ番組でも多く報道されたが新しい展開は見られず、何らかの謀略に巻き込まれたのではないかという噂も囁かれるようになった。
失踪前のクレイマーの言動を注意深く考慮すると、1つには彼が何らかの先進技術を発明したか、あるいはアクセスすることができたのではないかという仮説だ。そしてその先進技術は支配者層にとって世に公開してはならないものであったため、クレイマーが“消された”のではないかとする説である。
もう1つは『聖なる予言』に傾倒していた彼が、さまざまなプラクティスによって実際により高次の存在になることを遂げ、この物理的世界からはいなくなったのだという説である。
そのほかにもクレイマーは自分の意識をコンピュータにアップロードして肉体を消し去ったのだという見解や、エイリアンに誘拐されたとする説、どこかに身を隠しているだけだという説などがまことしやかに語られるようになった。