■海上自衛官の練度に驚き
船に乗り込んでまず思ったのが、大きな船にも関わらず、内部が非常に狭いということだ。通路はすれ違うのが大変なほど狭く、階段にいたっては頭を下げなければぶつけてしまうほど。角度はとても急で、踏面も狭い。慣れていなければ、転落する恐れも大いにある。運動神経には自信のある筆者でもゆっくり慎重に降りることしか出来なかった。
そのため、案内してくれた艇長の降下速度に度肝を抜かれた。小刻みな音とともに走るように階段を下り、ほぼ一瞬で下の階に移動しており、おそらくジャンプするより速かった。長い階段ではないものの、一瞬で大差を付けられてしまった。思いもよらぬところで、海自の練度の高さを知ることとなる。
さすが、世界に誇る組織海自だ。冗談でも何でもなく、階段を速く降りるということは、海上自衛官にとって大切な能力だと推察する。筆者も自衛官だったため分かるが、自衛隊における1秒というのは大変価値がある。その1秒間に魚雷やミサイルはとてつもない距離を移動する。階段を悠長に降りている余裕などどこにもない。
■船内に娯楽はない

読者の中には、客船等の大きな船に乗ったことがある人もいるだろう。その場合は売店やリラクゼーション空間などが整っているが、自衛隊の船の場合は任務に関する設備以外用意されていない。前述の通り大変狭い船内で、とても無機質だ。海自の船はどれもそのような造りだ。
売店も無いため、提供される食事以外の飲食物は隊員持参の上だ。今回の掃海艇の場合、個室があるのは艇長のみであり、他の隊員のプライベート空間はベッドの上だけだ。ベッドといっても、二段や三段と大変狭くなっている。このような環境であるが、最近の娯楽はスマートフォンが主流のようだ。
ただし、電波は入らないので、ダウンロードした動画等を楽しんでいるとのこと。運動は大きな船であれば甲板の上を走るなどしている。閉鎖的な空間だからこそ、カレーをはじめとした海自の食事は美味しいのだ。筆者も陸上自衛官として山に長期間籠っていたときは、食事の時間を心待ちにしていたのでその気持ちはとても理解できる。限られた娯楽や空間の中でささやかな楽しみを見つけて、モチベーションを保っていた。この過酷な経験を経て沢山の物事に感謝できるようになったので、とても感謝している。