擁護するファンが多かったのもエコーチェンバーの側面

世間で糾弾が多数派意見となる中で、今回の騒動ではSNSにおいてジャニーズ事務所を擁護するグループも形成されていました。

これを担っていたのは主に、ジャニーズ事務所のコアなファン層の人々でした。

旧ジャニーズ事務所性加害問題をめぐる X ユーザの分断
旧ジャニーズ事務所性加害問題をめぐる X ユーザの分断 / Credit: 立命館大学 – 旧ジャニーズ事務所性加害問題をめぐるニュースメディアとX(旧Twitter)の反応をビッグデータから明らかにしました(2024)

ジャニーズ事務所に対して、長年愛着と信頼を持っていたコアなファンが擁護に回ること自体は、それほど不思議なことではないかもしれません。

しかし、世論の批判が高まる中でも、一部のファンたちが強硬に事務所擁護のグループを形成していた要因は、今回の事件の沈黙多数の世論を破ったのと同様に、SNSのエコーチェンバーが原因だったと考えられます。

熱心なファンたちは、SNS上で同じ意見を持つ仲間たちに囲まれていたため、世論と逆行した意見を出すことへの恐怖や孤立感が減少していたのだと考えられます。

つまりエコーチェンバーは常にポジティブな要因として働く現象ではなく、誤った意見を拡散したり、世論を捻じ曲げようと働く危険性があるのです。

そのため研究者も、エコーチェンバーが特定の見解を強化し、誤った情報や偏った視点を広めるリスクについて指摘しており、慎重な情報の取り扱いが重要であるとしています。

以上がジャニーズ騒動の渦中で起こっていた「世論の変化のダイナミズム」でした。

最も注目すべきは、SNSという現代ならではのメディアの力(=エコーチェンバー)によって、多数派意見の逆転が起き得ることが確認できた点です。

研究チームはこの知見を受けて、複数の異なる世論がどのように相互作用し、世の中で主流となる論調がどのように変化するかを予測するヒントとなるだろうと話しました。

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参考文献

旧ジャニーズ事務所性加害問題をめぐるニュースメディアとX(旧Twitter)の反応をビッグデータから明らかにしました
https://www.ritsumei.ac.jp/profile/pressrelease_detail/?id=1039

元論文

Breaking the spiral of silence: News and social media dynamics on sexual abuse scandal in the Japanese entertainment industry
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0306104

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。