ジャニーズ事務所を糾弾する声が多数派に!

データ分析の結果、2023年3月のBBCによる報道後、性加害問題に対する沈黙はソーシャルメディアTwitter(現X)のユーザーによって最初に破られていたことがわかりました。

これは問題の報道について低調の姿勢を貫いていたマスメディア(特にテレビ・新聞)より早かったといいます。

Xユーザーが最初に糾弾の声をあげ始めた
Xユーザーが最初に糾弾の声をあげ始めた / Credit: canva

その後、SNSを中心とする世論は一挙に「糾弾」が優勢となり、さらにこの世論の情勢を公的なマスメディアが報じることで、全国的に糾弾の声が多数派を占めるようになりました。

これと対照的に、ジャニーズ事務所を擁護する声は少なくなっています。

つまり、ジャニーズ問題に関する世論は、従来の「沈黙が多数派、糾弾が少数派」から「糾弾が多数派、沈黙が少数派」というように多数派意見の逆転現象が起きていたのです。

なぜ世論の逆転現象が起こり得たのか?

この世論の逆転現象について、研究者たちは非常に興味深いケースだと話します。

というのも伝統的なメディア理論からすると、少数派の世論は表面化されず、世間的には不可視の状態が続く傾向があるからです。

これを「沈黙のらせん理論」と呼びます。

沈黙のらせん理論とは、名前ほど小難しい話ではありません。

簡単にいいますと、私たちは常に世間で主流となっている意見を気にしており、自分の意見が多数派と一致していれば、自分の意見を公に表明する傾向が強まるが、自分の意見が少数派であれば、公での表明を控える傾向があるという理論です。

この心理プロセスを支えているのは「孤立するのが怖い」という恐怖です。

自分の意見が多数派であれば、安心して意思を表明できますが、少数派だと社会的に孤立したり、批判されたりするのが怖くなって、意見を差し控えるというわけです。

実際に、長年にわたって続いてきた「ジャニーズ問題への沈黙」は、この理論で説明できるものでした。

なぜ少数派が声を上げられたのか?
なぜ少数派が声を上げられたのか? / Credit: canva

それがなぜ逆転現象が起こり得たのか?

この要因について研究者たちは「SNSという現代ならではのメディアの効力が大きい」と話します。

というのもSNS(今回は主にX)では、たとえ自分の意見が少数派であっても、似た意見を持つ人同士で閉じたコミュニティを形成することができるからです。

SNSにはユーザーの検索・閲覧履歴を踏まえて、最適な情報や他ユーザーを「おすすめ」として表示する機能があります。

そうした同じ意見ばかりが飛び交う環境に身を置いていると、たとえ少数派に属していても自分の意見に自信がついてきて、孤立への恐怖を感じにくくなり、意見を発信しやすくなるのです。

この心理作用は「エコーチェンバー現象」と呼ばれています。

まさに今回のジャニーズ問題では、SNSに特有のエコーチェンバーが働いたことで、沈黙を貫いていた糾弾派が表面化し、大々的に問題を追及する世論へと変わっていったのです。

ただし、このエコーチェンバーは常にポジティブな要因として働くわけではないという点に注意が必要です。