殺人鬼は数多いるが、エド・ゲインほどサブカルチャーに影響を与えた者はいないだろう。『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス、『サイコ』のノーマン・ベイツ、『羊たちの沈黙』のバッファロー・ビルなどの数々の伝説的ホラー・サイコスリラー映画の元ネタであり、昨今の日本でも『Fate/zero』の雨生龍之介や『ゴールデンカムイ』の江渡貝弥作などといったキャラクターが生まれている。「プレインフィールドの屠殺人」とも呼ばれたアメリカンホラーの源流エド・ゲインは今なお語り継がれ、遠く日本の文化にさえ影響を与えているのだ。
■狂信的な母と異常な教育
エドワード・セオドア・ゲインは1906年8月27日、米国ウィスコンシン州に二人兄弟の次男として生まれた。子供たちの幼少期、一家はウィスコンシン州プレインフィールドの町外れに、後に惨劇の舞台となる農場を購入して移住した。
父ジョージはアルコール中毒で、しばしば家族に暴力を振るった。母オーガスタは夫を嫌い、役立たずと常日頃から罵っていた。離婚しなかったのはひとえに信仰のためである。オーガスタは狂信的なクリスチャンで、しつけに厳しく、独善的な女性だった。自分は常に正しいと信じ、世界は悪徳と邪悪と不道徳に満ちていると信じていた。プレインフィールドへ引っ越したのも、溺愛する息子たちを外界に触れさせないためであった。彼女は息子たちに世間との接触を禁じ、友達をつくることさえ禁じた。父のようになるなと言い聞かせ、時に夫の死を共に祈らせた。
オーガスタはまた、狂信的な宗教教育を行っていた。世界の破滅は近いと息子たちに教え、飲酒は悪である、子供をつくる目的以外の性行為は悪である、自分以外の女性は不潔な売春婦などと言い聞かせた。オーガスタは性を嫌悪していた。そして、男性器は悪徳の象徴で堕落へと誘うものだと教え、息子たちに自分の男性器に唾を吐きかけるよう命じたという。
オーガスタの異常な教育もあり、友人をつくろうとしないゲインは学校でいじめられた。ゲインには突然笑い出す癖があり、それがまたからかいの種になった。一方で、成績はそれほど悪くなかった。