超短納期での仕事の依頼、休日返上での特急料金見合いの相応額
本件は「納期」という観点から見ると分かりやすいと思います。
石丸氏は令和2年7月22日に安芸高田市長選(告示日8月2日)への出馬を表明し、政治活動用ビラ(告示前ビラ)・掲示用ポスター・選挙運動用ビラの制作に関する請負契約を業者と締結。
しかし、ポスター・ビラの仕様(サイズ、カラーか否か、紙質等)、枚数、納品形態、納品場所等は未決定だった。
7月23日(海の日)、本件請負契約の具体的内容が以下のようなものに確定 (控訴人⇒石丸氏、被控訴人⇒業者)
a ポスターを260枚製作する
b 法定ビラを2種類製作する。他⽅、告⽰前ビラの製作は取りやめ、それまでのデザイン料等の費⽤は被控訴⼈が控訴⼈に請求する
c 法定ビラは、1回⽬及び2回⽬とも各8000枚を印刷し、各回7370枚を中国新聞及び読売新聞に折り込む。
d ポスター及び1回⽬の法定ビラは、⼩型チャーター便を⼿配して、同⽉30⽇中に控訴⼈の選挙事務所へ納品する。
e 2回⽬の法定ビラは、同⽉31⽇に宅配便で控訴⼈の選挙事務所へ発送する。法定ビラは、同事務所において証紙貼りをした上で、控訴⼈側が同年8⽉3⽇に被控訴⼈に持参し、被控訴⼈が検品及び仕分けをした上で中国新聞折り込みセンターへ搬⼊する。
これらの仕事は完成されましたが、相当な短納期でしかも祝日と土日始動(24日はスポーツの日、25,26日が土日)という状況でした。その事が相当な報酬額としての請求に影響したと考えることに問題が無いことについて裁判所は以下指摘しています。
また、⼀般に、選挙に係るポスターやビラは、限られた選挙運動期間の中で当該候補者の属性や政策等を有権者に効果的に訴求するものであることが求められる上、所定の規格に従ったものでなければならないことなどから、その製作にかかるコストは⼀般的な商業⽤のポスターやビラと⽐較して⾼くなることが多いと考えられるところ、本件請負契約についていえば、上記観点の下、総じて、契約内容(本件各業務)の確定から納品予定⽇まで、⼟曜⽇を含めた4連休の⽇を含む極めて短期間のうちに完成・納品を求められるものであった上、控訴⼈と被控訴⼈との間で、従前、同様の取引が⾏われたことはなく、新たな取引としてこれを⾏う必要があるものでもあった。また、本件各業務の業務内容の確定や業務の仕掛り前に、本件当事者間で、本件公費負担額の具体額を限度とした仕事の内容・程度に⽌めおきたいなどの事前のやり取りがされていたような事情もうかがえない。
報道にもある石丸氏の「いまさらですが、今回の発注でお支払いの総額はどれくらいになるものなのでしょうか。選挙運動の費用に制限があるため、念のためお伺いする次第です。」というメールが送信されたのは、ポスター及び1回⽬の法定ビラの納品日である7月30日以降でした。
こうした経過から、「休⽇・時間外対応費⽤」として上乗せされた金額についても正当性が真正面から認められています。
(イ)また、控訴⼈は、本件⾒積額のうち「休⽇・時間外対応費⽤」(9万4519円)について、これを控訴⼈に負担させる根拠はない旨主張するが、証拠(甲11、⼄1、2、証⼈C)及び弁論の全趣旨によれば、C及びDは、納期が短い上、控訴⼈からの⼊稿や指⽰が遅れるなどしたために、祝⽇⼜は⼟⽇であった令和2年7⽉23⽇から26⽇までの4⽇間、休⽇出勤をして、控訴⼈からの連絡を受けるため待機したり、控訴⼈の指⽰に基づいて作業を⾏ったりしたほか、上記の休⽇のうちに完了しなかった作業については平⽇に持ち越すこととなって、同⽉27⽇及び28⽇には残業を余儀なくされたことが認められ、納期に余裕がありあるいは適時に⼊稿や指⽰が⾏われていれば⽣じなかったC及びDの休⽇労働や時間外労働に係る割増賃⾦等の費⽤について、これをいわゆる特急料⾦⾒合いの相応額として本件請負契約に係る報酬額に計上することには相当性が認められるというべきである。
「控訴⼈の指⽰に基づいて作業を⾏ったりした」というのは、要するに石丸氏側からの「仕様変更」があったということでしょう。
広島県・安芸高田市議選での他の候補者は公費負担額に収まってるが…さて、(選挙運動用の)ポスター・ビラの製作にかかる報酬額については、他の議員からは自身の経験も踏まえて、公費負担額から足が出ることについて疑問が呈されることもありました。
石丸氏も訴訟において、他の議員らとの平仄から報酬見積額がおかしいのでは?という主張はしていましたが、それも以下の判示で退けられています。
もっとも、控訴⼈は、調査嘱託の結果に基づき、令和2年4⽉12⽇に執⾏された広島県議会議員安芸⾼⽥市選挙区補⽋選挙及び同年11⽉15⽇に執⾏された安芸⾼⽥市議会議員選挙の各候補者の多くについて、そのポスターや法定ビラの製作費⽤が公費負担の上限額を超えていないことを指摘する。しかし、上記のとおり、ポスターやビラの製作に係る報酬額は、個々の請負契約に係る上記諸事情の内容、程度により左右されるものということができる(定型的な物品の売買等と異なり、ポスターやビラが意匠の関わる創作物であることからしても、⼀層そのようにいえるものと解される。)ところ、これら控訴⼈が指摘する候補者らが、いかなる取引業者と、いかなる⾒地(取引業者と代⾦額を定めるに当たって公費負担上限額をどこまで重視することとしたかといった観点を含む。)から、どういった趣旨や由縁に基づいて請負契約を締結したのか及びその約旨は上記証拠等によっても明らかでないから、こうした事情を措いて、上記調査嘱託の結果から、本件請負契約における相当報酬額についても本件公費負担額とし、あるいはこれを上限とすべきであるなどとは到底認め難いというべきである。上記調査嘱託の結果は、これらの候補者が、ポスター等の製作費⽤につき⾃⼰負担が⽣ずることを避けるため、公費負担の上限額を超えない内容でその製作を業者に依頼した結果であるとも考えられ、控訴⼈の上記主張の裏付けとなるものとはいえない。
継続的な取引関係にあれば安くなるし、事前に公費負担額の範囲になるように調整してほしい旨を伝えていたならば、金額も変わっていたでしょう、という常識的なことを言っています。*2