「カスハラ」とは店舗の業務を妨害する行為

―――今、話題になっている「カスハラ」にはどういう対応をしていくべきでしょうか。

難しい問題ですが、私が考える「カスハラ」とは、お店の業務を妨害するお客様のことです。

会話が接客のきっかけになる場合もありますが、服を買う気がないのに世間話だけを1、2時間喋っているような人で、他のお客様の接客をしようとすると嫌がるなど、接客業務を妨げるのは明らかな妨害行為です。

つい話に付き合ってしまう優しい販売員の方が多いのですが、無理矢理にでも服の話題にもっていったり、別のお客様が来たら接客したりするといった対応をしていいと思います。

―――販売員側としては、本来の接客業務を妨害してくるという基準を設けるのはわかりやすいですね。

話を掘り下げても買ってくれない、自慢話が続く、お客様がこちらの質問に答えてくれないなどの行為が20分以上続く場合はカスハラと認定していいなど、アパレル各社で基準を設けていいのではないかと思います。

企業としてもカスハラとクレームの境目は難しいと思いますが、改善すべき部分を伝えてくれるクレームなのに「カスハラだ」と突っぱねてしまうのが一番あってはいけないことです。

―――今までは販売員個人がカスハラかどうかを判断し、うまく切り抜けてきたケースもあると思うのですが、今後は社内でカスハラの定義を決め、共有されていけたらいいと思いました。

そうですね。感じの良いスタッフばかりがカスハラに悩まされる状況は避けたいですね。私はカスハラと思われるお客様に対しては、知らないふりをするとか、電話をしているふりをするなど、避ける術を身につけていました。

いつでも正直に対応するのではなく、状況に応じてちょっとずるくなってもいいんじゃないかなと思います。

接客でしか得られないリアルなお客様の情報とは?

――― AIにはできない接客のポイントとは?

一番は、お客様の情報を知ることができる点です。接客はお客様のニーズに応えて商品を提案し、購入してもらうことが目的です。しかし、今はさまざまな販売経路があるので、接客で購入してもらえることが必ずしも購入手段とは限りません。



接客を受けてECで買う人もいるので、購入してもらうだけではなく、お客様の情報を集めることが接客の目的の1つになると私は考えています。



それも、お客様の年齢や職業ではなく、雨の日にお客様はどこを濡らしてきたのか、足元なのか、肩なのかなどのリアルな情報です。

例えば、コロナ禍による感染者数が減少してきた年末には、年内に結婚の挨拶をしておきたいと、ご挨拶用の服を買い求める方が増えたそうです。



この「コロナ感染者数が減った年内に結婚の挨拶をしておきたい」というニーズは、会話でしか引き出せないんです。お客様がECで購入時に理由まで入力することはないですから。



ネットではわからない生の情報を販売員がいかに引き出せるかは接客の大きなポイントで、商品作りだけでなく、広告やPR、SNSの戦略にも生かせると思います。



こうしたリアルな現場での情報収集は、AIには負けない、接客ならではの強みだと考えています。



お客様が「人から正解を言ってもらえる」という点も、AIにはできないことだと思います。試着時に販売員がリアクションを取ってくれるとか、似合うか似合わないかを正直に話してくれるとか、そうした接客でもお客様の満足感は高まります。



空気を読めたり相性があったりするなど、人ならではの感情的な部分もAIにはないことです。AIで接客を受けた時って、あまり印象に残らないんですよね。