以前に紹介したベントレー ベンテイガ。そのベンテイガは、都心の移動手段としてはちょっと大きいため、ジャストサイズの駐車場を探すのも一苦労。そんな時、戸賀編集長の頭に浮かんだのは、価格が手頃でありながら、こだわりのあるサードカーとしての小型車でした。すでに手離してしまった現在でも、彼に、「あれは『名車』だった」と語らせる1台とは、一体どんなクルマだったのでしょうか?
出版業界では、かなりのクルマ好きとして知られている戸賀編集長(トガ)。数々のクルマを乗り継いで来た彼が、10年に渡るメンズクラブ編集長という肩書を外し、忖度が無くなった状態のなかで、「どんな基準でクルマを選んでいたのか?」、「そのクルマの魅力はどこなのか?」等を大いに語ります。 話の聞き手は、戸賀編集長が雑誌編集者時代から30年来の付き合いを続けている、フリーランスエディターの菅原(スガ)。若い頃の数年間は、仕事も遊びもほとんど一緒に過ごしていたという「トガ&スガ」の二人。そんな二人ならではの昔話、こぼれ話もお楽しみに!
菅原 トガ、もう一度確認させてくれ。前回の愛車遍歴で紹介したのが、ゲレンデのG400D エディション マグノホワイト。今回のクルマは、このクルマより以前に所有していた1台ということで間違いないんだよな?
戸賀 間違いない。なぜか話している最中に、当時の記憶が蘇ってきちゃうんだよね。本当に申し訳ない。
菅原 まぁ、さすがにファーストカーの『マクラーレン570S』、セカンドカーの『ベントレー ベンテイガ』に続く、サードカーという位置付けにあるクルマなら記憶に残らないのも仕方ないかな、とは思うよ。
マクラーレンやベントレーを超える名車
戸賀 ありがとう。でもなスガ、じつはこの後から思い出したクルマ、俺が独立してから乗ってきたクルマの中でも、最高の1台、いや『名車』と言っても過言ではないクルマなんだよ。
菅原 トガ~、名車の存在を忘れちゃまずいだろ。まぁ、まずは話しを先に進めよう。独立してから乗ってきたクルマってことになると、マクラーレン570Sや、ベントレー ベンテイガよりもトガ的には上の評価になるってこと?
戸賀 そうなるね。
菅原 そんなクルマあるの? それもサードカーだろ? それはマジで教えて欲しい人も多いはず。トガ、そのクルマとは一体?
戸賀 はい。そのクルマは、フォルクスワーゲンのUp! GTiです。
戸賀 確か、ベントレーをコインパーキングに入れるたびに、ホイールを擦りそうなことが多かったから、サードカーを考え始めたんだよ。仕事も順調だったし「安い小型車でも乗ろうかなぁ」って感じでクルマ探しをスタートした感じかな。その頃はまだ、ネオ・クラシックには興味がなかったし、まだMINIのジョンクーパーワークスのアンバサダーの話しも無かったから、純粋に、「自分の足代わりでありながら、かつ、こだわりが感じられる1台」が欲しかったんだよ。
GTiという存在をあらためて認識する
菅原 比較検討するクルマは多かったの?
戸賀 そうだね。俺が小型車で最初に頭に浮かぶのは、やっぱり『アバルト』。乗っていると疲れが吹っ飛ぶくらい最高のおもちゃなんだけど、いかんせん乗り心地が悪かった。高速に乗ってゴルフに行くことが多い俺には、この点が大きなマイナスポイントで、購入は見送り。次に考えたのが、戸賀といえば、の『スマート』だった。ブラバスあたりの限定車を買うことを検討したんだけど、ブラバスが生産中止を発表したことでタマ数が少なくなって、値段も上がっていたから出物がまったく無い状態だったんだよ。まぁ、スマートはツーシーターだから、キャディバッグを載せると、ひとりしか乗れないというのも問題だったんだけど、こちらもやっぱり却下。そこで、「何か良いのないかなぁ?」とあらためて考えていたら、ゴルフのGTiが頭に浮かんできた。でも愛車遍歴のシリーズを見てもらえば分かる通り、俺、一回もフォルクスワーゲンのゴルフを所有してないんだよ。俺が大好きな徳大寺さんは、初代のゴルフGTiで世界一のモータージャーナリストになる訳だけど、あの巨匠が大好きだったゴルフに乗ることがないまま、今に至っていることに気が付いた。確かに、今までセカンドカーやサードカーの購入を考えるとき、ゴルフは必ず候補に挙がるものの、購入には至っていないんだよ。
菅原 そこに何か理由はあるの?
戸賀 その時々で理由は変わるんだけど、今回に限って言えば、確かにサイズは小さいんだけど、俺が想うサードカーにはちょっとデカかったってことかな。そして値段も高かったので俺には手が出なかった。だから、その下のポロならどうかな? とも考えた。
菅原 確かにその選択肢はあるよな。
戸賀 でもな、スガ。調べてみたら、ポロのGTiは、新車で400万を超えるんだよ。
菅原 え~っ、ポロって今そんなに高いの?
戸賀 そうなんだ。だから当然、予算オーバー。でも正直な話し、ポロはさすがに400万円のクルマではないと思ったのも事実。ならば、GTiじゃないゴルフやポロは? と一瞬考えたりもしたけど、オートマで非力なクルマだろう? これどう考えても俺の性格上、飽きるんだよ。
菅原 それは間違いない (笑)。だったら、もうちょっと元気のある他の輸入車は考えなかったの?
戸賀 考えた。最初にMINIクーパーを検討したけど、さすがに小さな高級車。予算的にオーバーだったから諦めた。次にBMWの1シリーズに注目した。FFのBMWには乗りたくなかったから、FR時代の旧い135を探したんだけど、走行距離がしっかり1万キロを超えているクルマばかりだったので、中古嫌いの俺の触手は動かなかった。ちなみにこの時に、マツダロードスターも良いかな? と考えてオーナー達に取材してみたら、キャディバッグを載せるにはドライバーを抜かなければならないと聞かされて、こちらも諦めたんだよ。
数々の小型車を吟味し、ついに名車を発見!
菅原 ルノーのメガーヌとかの他の欧州車には興味はなかったの?
戸賀 そこは俺の了見の狭いところなんだけど、ドイツ車以外は、やっぱり気分が盛り上がらなかったんだよね。他にアウディのA1も見たけど、こちらも予算オーバー。メルセデスのAクラスも見たんだけど、こちらは魅力を見いだせなかった。
菅原 けっこう真面目にクルマ選びをしていたんだな。
戸賀 当たり前だろ(笑)。で、かなり頭の中が煮詰まってきた時に、フォルクスワーゲンのUp!に、まさかのGTiがあることに気が付いた。しかも価格は200万円ちょい。はじめて最初から我が家の予算をクリアしているんだよ。この優等生を発見したときは、本当に感動したよ。強いて言えば、右ハンドルのマニュアルというのは気になったけど、ゴルフもポロもは右ハンドルしかなかったから、まぁ、これは仕方がないと納得。納得したところで、購入を一気に進めた記憶がある。
硬いのにしなやかな最高の乗り心地
戸賀 実際に納車されたのは、ボディが白で、シートはチェック柄というモデルだった。必要最小限の装備しかなくて、エンジンは1リッター3気筒のターボ。これが鬼っ速というんではなく、気持ちの良い速さを体感させてくれるんだよ。特急ではなく快速って感じかなぁ。若干、3気筒っぽさはあるけど、これは大した問題では無い。乗り心地も最高で、硬いんだけどしなやかな仕上がりで、アバルトはUp! GTiを見て勉強した方が良いと本気で思ったくらい絶妙なバランスだったんだよね。シフトも小気味よくスパッスパッ入るし、クラッチも全然重くない。坂道発進のときはオートホールド機能でメチャクチャ便利だったし、ちょっと硬めのシートは、腰痛持ちの俺には最高の座り心地だった。視界も何もかも最高、車庫入れ一発、燃費も最高で俺の感覚でしかないけど、真面目に燃費走行したら、なぜか20キロは超えられるような気がしたんだよなぁ。もう、どこにも文句のつけようがないくらい、最高のクルマだったね。リアシートを倒せば、3本のキャディバッグを載せることも可能だったしね!
菅原 ちょっと聞きたいんだけど、リアシート倒したら二人しか乗れないのに、何故キャディバッグを3本も載せるんだい?
戸賀 うるさいよ(笑)。我が家には我が家の事情があって、家にキャディバッグを置いておくと怒られるんだよ。だから当時、ベンテイガの中とUp! GTiの中には、使わないキャディバッグとクラブがいつも数セット入っていたんだよね。試してみたら、Up! GTiには3本のキャディバッグが余裕で入った記憶があるよ(笑)。そう考えてみると、Up! GTiは、ゴルファーズ・セカンドカーとしても最高のクルマだったよね。 菅原 トガにしては珍しく、べた褒めの1台だな。
戸賀 いや、本当に最高のクルマだったんだよ。徳大寺さんがお気に入りだったゴルフIのGTiとほとんど同じボディサイズで、スペックも似ている。言ってしまえば、Up! GTiは、現代のゴルフI GTiといって過言ではない。だから、俺が初のGTiにUp!を選んだことを、徳大寺さんも喜んでくれていると思う。でもな、スガ。Up! GTiにもひとつだけ、どうにも残念なところがあるんだよ。
菅原 おっ、べた褒めだったUp! GTiにも、ついに欠点が!?
名車なのに注目されない悲しい1台
戸賀 機能を簡略化し過ぎたからなのか、Up!は昔のクルマみたいに、給油口の中のキャップに鍵が付いてるんだよ。だからガソリンスタンドに行くたびに、エンジンを切って給油が終わるのを待っていなきゃいけなかった。真夏は車内があっという間に暑くなるし、これマジで最悪だった(笑)。
菅原 残念なポイントって、そんなことかい!
戸賀 まぁ、これは冗談だけど、本当に残念だったのは、女性にも男性にもまったく見てもらえなかったこと。俺は、コーディネートした洋服を着ているときは人に見られたいと思うんだけど、クルマに乗っているときなどは、あまり見られたくない方なんだよね。でも、Up! GTiは、誰も見てくれなかった。100回に1回くらい、カメラバッグを斜め掛けしているおじさんに写真を撮られることがあったけど、それ以外はまったく見られることが無い(笑)。たぶん、多くの人には軽自動車だと思われているし、エンジン音も欲がない音だから、まったく目立たない。そこは欲が出過ぎて、音だけでも注目を浴びてしまうアバルトに学ぶのも良いかも知れない (笑)。見られ無さ過ぎるのも寂しいからね。日本にはイケてる軽自動車が多いのもあって、Up! GTiのサイズだと軽自動車の中に埋もれてしまったっていう感じなのかなぁ。あのクルマに乗っていたとき、唯一、良いクルマなのに、まったく見てもらえないのが悲しかったんだよ。
菅原 確かに、名車であるにも関わらず、みんなに気が付いてもらえないクルマって悲し過ぎるよな。
戸賀 でも、はじめてフォルクスワーゲンのGTiを所有したおかげで気付けたこともある。それは、GTiって、フォルクスワーゲンでもなければ、ゴルフやポロやUp!でもなく、GTiというブランドなんだっていうこと。車格を超えた絶妙な乗り心地は、まさにGTiにしかない世界観。こんな世界観を持っているからこそ、俺も名車と感じたのかも知れない。
菅原 そんな名車とも、別れの時はくる訳だよね。今回は、どんな感じだったの?
戸賀 今回も「このクルマが欲しい」という後輩のドクターが現れたから譲ることにした。欲しいと言ってくれる人がいる時が、売り時だからね。でも、何で売っちゃたかなぁと、思っていた自分もいるんだ。本当に良いクルマだったからね。だから今も気になって中古市場はチェックしていることは秘密にしておこう。Up! GTiもそうだけど、その前に所有したメルセデスのE220dの2台は、セカンドカー、サードカーだったにも関わらず、俺のクルマ歴に名を刻む名車だと思っているよ。これは間違いなく断言できる。スガにもこの2台は体感して欲しいんだよなぁ。俺が今チェックしているおススメを紹介しようか? 何台かはすぐにピックアップできますよ!
菅原 ちょっとトガの話し方が営業マンチックになってきたので、今回は積極的に遠慮させていただきたいと思います!
次回は、通常に回に戻って、ゲレンデのG400D エディション マグノホワイトに続く、SUVのセカンドカーの登場です!
フォルクスワーゲン Up! GTi
全長×全幅×全高: 3265mm×1650mm×1485mm
ホイールベース:2420mm
車重:1000kg
駆動方式:FF
エンジン:999㏄ 直列3気筒DOHCターボ
トランスミッション:6速M T
最高出力:116ps/5000~5500rpm
最大トルク:200Nm/2000~3500rpm
価格:¥2,342,000 ※2019年当時
文・菅原 晃/提供元・JPRIME
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