東日本大震災とウーブン・シティ

“ウーブン・シティ”が計画された背景には東日本大震災が関係しています。
リーマン・ショック後に少しずつ落ち着きと活況を取り戻しつつあった2011年3月に発生した東日本大震災による未曾有の危機は自動車産業への影響も極めて大きく、尊い命と多くの設備が失われ産業としての機能がストップする状況に陥りました。
そして、少しずつ落ち着きを取り戻した頃に自動車産業においても特に地震や津波の被害が大きかった東北地方や関東地方の拠点を中心に復興への歩みが進んでいきました。
そんな中、トヨタは2012年7月に関東自動車工業(株)・セントラル自動車(株)・トヨタ自動車東北(株)の3社を統合してトヨタ自動車東日本(株)を宮城県に設立し、東北地方を長期的にサポートしていくことをはじめました。
そして、現在、それはトヨタの主力生産拠点の一つとなっています。

トヨタが取り組んでいる「Woven City(ウーブン・シティ)が担うモビリティ社会への変革とは?」【自動車業界の研究】
目指す姿の実現に向けて(トヨタ自動車東日本)(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)

そういった一連の流れの中で関東自動車工業(株)が富士山のふもと静岡県裾野市で1967年に竣工した「東富士工場」の生産機能が宮城県にあるトヨタ自動車東日本(株)へと移りました。
復興を加速させるために工場を東北に移管した後の跡地について、未来に向けてどのように繋げていくか?の検討が”ウーブン・シティ”構想のきっかけであったとのことです。

ヨタハチの愛称で人気を博したトヨタの「スポーツ800」や最高級車「センチュリー」、AE86として今や伝説的名車と称される「カローラレビン/スプリンタートレノ」、初代「クラウン」をモチーフに熟練工が手掛けた希少車「オリジン」といった数々の名車を世に送り出してきた「東富士工場」の跡地が未来のモビリティ社会を実現するための場所に変わるのは少しさみしくも素敵だと思えます。

トヨタが取り組んでいる「Woven City(ウーブン・シティ)が担うモビリティ社会への変革とは?」【自動車業界の研究】
オリジン(トヨタ自動車)(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)
トヨタが取り組んでいる「Woven City(ウーブン・シティ)が担うモビリティ社会への変革とは?」【自動車業界の研究】
静岡県裾野市とウーブン・シティ(ウーブン・バイ・トヨタ)(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)

モビリティのテストコースであるウーブン・シティの概況

モビリティを拡張し、未来の当たり前を発明する仕組みと提唱されている”ウーブン・シティ”は、モビリティのテストコースとして将来的には708,000平方メートルを計画(46,755平方メートルの東京ドーム約15個分)、2024年にはPhase1として50,000平方メートルに段階的に360人が暮らすための建設工事の完了を予定していて、その後は諸準備を整えて2025年より実証を開始する予定とのことです。

では、そもそもモビリティとは何を指すのか? についてですが、いろいろと見解はあるものの「乗り物や移動手段だけではなく、可動性や動きやすさ、移動性や流動性、機動性といった幅広い動き」といったところも広義には示されていて、安全に目的地にたどり着くことや欲しい物を欲しい場所に届けてもらうことはもちろん、例えば、遠くに居る家族や友人と遠隔で顔を見ながら会話することなども含まれるためモビリティと言っても様々です。

トヨタが取り組んでいる「Woven City(ウーブン・シティ)が担うモビリティ社会への変革とは?」【自動車業界の研究】
モビリティについて(ウーブン・バイ・トヨタ)(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)

“ウーブン・シティ”では、こういった暮らしの中にある“人・物・情報”のモビリティを通して「人の心まで動かし感動を与えること」を目指して各種の実証実験が推進されるようです。
具体的には、自動運転やモビリティサービス、遠隔コミュニケーション技術、ロボットも活かした物流サービスや水素エネルギーの活用などの実証を検討していて、ENEOS(エネルギー)、日清食品(食品)、Rinnai(水素調理)といった各業界の大手企業とも連携して研究が進められています。

トヨタが取り組んでいる「Woven City(ウーブン・シティ)が担うモビリティ社会への変革とは?」【自動車業界の研究】
Phase1での実証内容(ウーブン・バイ・トヨタ)(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)

そして、モビリティが人のためにできることを増やし、“食”や“農業”、“エネルギー”、“ヘルスケア”、“教育”といった様々な生活に関わる領域とモビリティを組みあわせることで、心まで動かすような未来の当たり前を創造していくことを「モビリティの拡張」と”ウーブン・シティ”では謳っています。

トヨタが取り組んでいる「Woven City(ウーブン・シティ)が担うモビリティ社会への変革とは?」【自動車業界の研究】
モビリティの拡張(ウーブン・バイ・トヨタ)(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)

また、”ウーブン・シティ”では“働く人、住む人、訪れる人”はみな「発明家」マインドを持ち、生活する中で感じる困りごとやニーズをきっかけに、「自分以外の誰かのために」と未来の幸せを共に生み出すことが念頭におかれています。
そして、”ウーブン・シティ”が機能として持っている「アイデアを走らせるテストコースのような街」として、机上のアイデアを実際に街でテストすることや「発明を加速するための様々なサポート」として「発明家」が困ったときの各種支援、例えば、ものづくりで言えばリアルとデジタルの両面からの支援など、蓄積された知見の活用が実際にできるように建設が進められています。

“ウーブン・シティ”の特徴として、他にあまり例のない「訪れる人も発明家マインドをもつ」という考え方があるのですが、私たちもその一人になれる可能性があるのですから、とても素晴らしいですよね。
シティ(都市)は、そもそも多くの人々が暮らすところであって、つまり、人々の数以上にニーズや課題が存在するので、それらを解決する発明を受け持つのが訪れる人であっても、何ら不思議はありません。
特に好奇心旺盛な方は将来のワクワクする夢を”ウーブン・シティ”で想像すると嬉しいのではないでしょうか。
もちろん”ウーブン・シティ”はテストコースでいわゆる研究施設であるため、当然ながら機密が多くて全てを知ることはできませんが、今後は少しずつ公開されていくと予想されますので注目していきたいと思います。

トヨタが取り組んでいる「Woven City(ウーブン・シティ)が担うモビリティ社会への変革とは?」【自動車業界の研究】
ウーブン・シティのビル(ウーブン・バイ・トヨタ)(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)