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結局、構造もエンジンも常識破りだった!
1BOXバンこそ設定しなかったものの、RVブームを先取り?
結局、構造もエンジンも常識破りだった!
しかしTN360が常識的なのは見た目だけで、それ以外はある意味でT360よりよほど過激な「いかにもホンダらしい軽トラ」でした。
何しろエンジンは8ヶ月早く発売された「N360」用の空冷2気筒エンジンをデチューンして搭載、その韋駄天ぶりから第一次軽自動車パワーウォーズを巻き起こしたN360用がベースですから、デチューンといってもT360と同じ30馬力を発揮し、最高速は100km/h。
このエンジンを、床下搭載のため90度倒して水平にした以外は、ミッションやデフごとN360のトランスアクスルごとリアミッドシップに搭載して、プロペラシャフトいらずにしたあたり、水冷エンジン+プロペラシャフト駆動のT360より過激な構造です。
しかも、真ん中にエンジンのメンテナンスハッチを設け、荷物をどけないと整備が大変そうな荷台は、サブフレームで補強したとはいえそれ自体が剛性を受け持つ特殊なモノコック構造になっており、床下にデフを取り付けリアの足回りはド・ディオンアクスル半独立懸架。
このようなレイアウトのおかげでキャビンは広々とできましたが、スバル サンバーともども他の軽トラにはない構造で、2021年に生産終了したアクティトラック(4代目)まで、これがホンダ軽トラのスタンダードになりました。
なお、1969年にはT360にも存在した前輪スキーつきの「スノーラ」が追加されており、これもアクティトラックの時代に再設定された、ホンダ軽トラの伝統です。
1BOXバンこそ設定しなかったものの、RVブームを先取り?
1970年にはマイナーチェンジで「TNIII 360」となり、軽乗用車のNIII 360ともども少々マイルド路線になりますが、この時にキャビンスペースを広げるとともに設定された「スーパーデラックス」が、後のRVブームを先取りしたような、面白いグレードでした。
フロントグリルやバンパー、ホイールキャップなどにクロームメッキのパーツを使い、熱線吸収ガラスやラジオ、木目付きのメータカウル、ソフトパッド付ダッシュボード、通気性レザー調シートなど、内外装の豪華っぷりは業務用や農家向けの軽トラとは思えません。
この頃のホンダは、他社のように軽トラベースの軽1BOXバンを作らず、FFの「ライフステップバン」(1972年・N-VANのご先祖)に軽商用バン兼レジャー向けの役割を与えていましたが、TNIII 360にも同様の用途を想定した最上級グレードを設定したわけです。
後に「商用車をカッコよく乗る」という、1980年頃の初期RVブームを10年先取りした存在で、さすがにこれでTNが大人気となるには時期尚早だったと思いますが、後から考えれば「先見の明があった」とも言えるのがTNIII 360スーパーデラックスでした。