ナチス総統・ヒトラーを怖がらせ、ソビエト連邦の二代目最高指導者・スターリンを感服させたサイキック(超能力者)がかつて実在した。その名もヴォルフ・メッシングである。
■サイキック少年、ヴォルフ・メッシング
ヴォルフ・メッシングは1899年に現在のポーランドのワルシャワから約15マイル離れた小さな村、グラ・カルバリアの貧しいユダヤ人家庭に生まれた。彼は幼い頃からかなり特殊な能力を持った少年であり、未来を予測したり、透視、テレパシー、そして人々が目にするものに対する認識を変えるなどの特別なサイキック能力を持っているといわれていた。
10代の頃、彼はこれらの能力で村でかなり有名になり、小遣い稼ぎにデモンストレーションを行い、隠されたアイテムを見つけたり、人々の心を読んだり、人々の心に考えを植えつけたりするなど、あらゆる種類の“隠し芸”を披露していた。彼はこれには異常なことは何もないと主張し、人体の微妙な変化を感知するなどして、誰もが習得できるプロセスを通じてこれらすべての“隠し芸”を行うことができると説明した。
「それは心を読むことではなく、“筋肉を読むこと”のようなものです。人間が何かについて真剣に考えるとき、脳細胞は体のすべての筋肉にインパルスを送信します。目に見えない彼らの動きを、私は簡単に察知することができます。多くの場合、私は相手に直接接触せずに精神的なタスクを実行しています。ここでの私が指標としているものは相手の呼吸、心臓の鼓動、声の音色、歩き方などです。未来を見る私の能力は、世界の唯物論的理解と矛盾しているように見えるかもしれません。しかし予知について、そこには未知の要素や超自然的な要素はありません」(ヴォルフ・メッシング)
敬虔なユダヤ教徒であったメッシングの両親は、彼を強制的に神学校へ行かせようとしたのだが、それを嫌ったメッシングはある日、決意して家出をした。
しかし貧乏な家で育った彼は旅費など持っているはずはなかった。そこで仕方なく“隠し芸”であるサイキック能力を使うことにしたのである。ドイツ・ベルリン行きの列車で無賃乗車が発覚すると、メッシングはサイキック能力を使って車掌に新聞の切れっぱしを乗車券だと信じ込ませることに成功したのだ。
ベルリンに着いたメッシングは糊口をしのぐために靴磨きや皿洗いなどの仕事をしながら、時間をみつけてサイキック能力に磨きをかけた。
こうしてブラッシュアップされたサイキック能力のおかげでメッシングは、サーカス団に見込まれてサイキックショーをする仕事を得た。
瞬く間にメッシングは評判になり、ショーのチケットは販売されるやすぐに売り切れになったという。ある日のショーには精神分析学の父ジークムント・フロイトと、現代物理学の父アルベルト・アインシュタインという2人の偉大な科学者が見物にやってきたというが、この2人をもってしてもメッシングのパフォーマンスはまったく不可解であった。こうしてメッシングは一種の“マジシャン”として名声を勝ち得ていったのだ。