【注記】
※1 この判決は、「判断力のない成人から選挙権を取り上げること自体が違憲だ」と判示したものではありません。「成年後見人審判で確認されるのは財産管理能力であり、選挙での判断能力とは関係がないので、制度を借用して選挙権を停止するのは違憲だ」と示したうえで、「選挙権の行使に判断力が必要だというなら、そのための制度をちゃんと作りなさい(オーストラリアや、アメリカの一部の州のように)」と国会に促す内容でした。
※2 国会は、違憲判決の2ヶ月後に「成年後見人には選挙権がない」と定めた公職選挙法11条1項1号を単に削除する改正案を、衆参両院の全会一致で可決しました。「代わりに選挙での判断力の線引きをする制度を創ろう」という議論にはならなかったので、「選挙権に判断力は求めない」が立法府の総意だと言ってよいでしょう。
※3 日本国憲法15条3項には「成年者による普通選挙を保障する」と書かれているので、現行の扱いが違憲とは言えません。が、憲法は未成年者の選挙権を禁止しているわけでもないので、憲法を改正せずとも、選挙権を拡大する法改正は可能でしょう。ちなみに男女普通選挙が実現したのも、日本国憲法公布(1946年11月)より前の1945年12月、大日本帝国憲法下での選挙法改正によるものでした。
※4 現在の運用は、認知症患者等も完全に独立した自由意思で投票行動を決めているという建前に基づいています。しかしその前提が実際に満たされているかはかなり疑わしく、老人ホームの入居者を投票に動員するような事件がたびたび起きています。「投票の意思決定に支援が必要な人もいる」という現実を正面から認めて、サポートを行う権限を持つ者を指定するなどの制度設計をする必要があるように思われます。
※5 似たような主張が、「社会保障の世代間格差の解消」という特定の政策目的を実現するための「手段」として掲げられることがありますが、その議論は論理的にも戦術的にも、筋がよくないと思います。世代間格差が存在するか否か、それを是正すべきか否かに関わらず、「一人一票原則を全年代に公平に適用すべき」というのが、正しい議論の立て方でしょう。(「平均余命に応じて投票数を配分する」「世代別選挙区制」などのアイディアも、理屈は分かりますが、過度に技巧的で現実味がありません。)
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坂野 嘉郎 投資銀行、医療政策シンクタンクなどを経て、スタートアップ企業にて財務を担当。東京大学法学部卒、ハーバード公衆衛生大学院修了(MPH)。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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