給付より減税が望ましい理由

家計負担増を背景に、生活支援策として、自治体独自でお金を配るところもありますが、お金を集めておいて、事務コストをかけて給付する位であれば、最初から取らない、つまり集める額をその分減らせば良いわけであり、このシンプルさが減税のメリットでもあります。

ちなみに、昨年末から国が実施している4万円減税案は、合間に給付が何回も入り、非常にややこしい仕組みになっており、本来の減税のメリットが生かされていません。

給付にかかる事務作業としては、最低限でも、対象者をリストアップし、お手紙を作成して対象者に送付し、銀行振込をするというような作業が発生します。大概は外部委託で行なっていますが、ミスが許されず、個人情報を扱う重要な業務なので、結構な委託費用も発生します。それとは別に、一人一人の口座に振り込むための振込手数料も発生します。給付事業の予算のおよそ1割は事務コストに費やされているとも言われており、非常にもったいない。

この感覚をわかりやすい例で言えば、海外旅行に行くときの、現地通貨への両替です。足りなくなるかもと思って多めに両替をすることが多いでしょう。その両替には手数料が発生します。でも現地で現金を使わなかったので、やはり日本円に戻したいという場合、再度、両替手数料が発生します。行ってこいで、往復1割くらい損することもあります。この手数料、つまりは事務コスト、非常に勿体無いと感じませんか?

自治体独自でできる減税を始めよう

そこで私は、シンプルに住民税の減税を提案します。国の森林環境税という名で、全国の自治体の個人住民税均等割に年額1,000円上乗せして賦課徴収される分、自治体独自で、年額1,000円の個人住民税減税を行い、増税による納税者の負担を軽減したらどうでしょうか。

森林環境保全をしたい自治体が、独自で増税して住民税に上乗せするのと反対に、国の森林環境増税による、住民の負担増をそのまま受け入れるのではなく、独自の住民税減税で、我がまちの市民の負担を軽減しましょうということです。

例えば目黒区の場合、目黒区の納税者数が約17万人であることから、この減税に必要な予算は約1億7,000万円、10年分の予算でも17億であり、令和5年度の財政調整基金残高(見込み)389億円から捻出するにしても、十分可能な額ではありますし、そもそも1300億円という目黒区の予算規模からして、毎年の1億7千万円という金額は、予算の0.01%程度であり、基金を使わなくとも、工夫次第で捻出可能です。

 

役所側は、応益負担の原則を持ち出し、「住民税は自治体が提供する様々な行政サービスの資金源」なので住民サービス維持のために住民税減税は妥当ではない、というような反応をしますが、ふるさと納税制度で他の自治体に寄付すれば住民税の税収は減りますし、目黒区では令和4年度は約34.2億円の減収で、この減収額は年々増えています。

この減収は我がまちの住民とっては何のメリットもありませんが、住民税減税は、減収ぶんがそのまま住民の負担軽減に直結します。住民サービス維持のために減収を心配するならば、ふるさと納税対策を図るべきです。

そもそも、給付事業を行う際に、「給付に予算を使う代わりに、他の住民サービス維持が難しくなる」などという言い方はしません。家計が苦しい現状で、国が森林環境税として個人住民税に年額1000円上乗せしてきたことに対する、家計負担を軽減するための減税ですので、どの自治体でも無理な額ではないでしょう。ふるさと納税で潤っている自治体なら、尚更です。

減税は単なる減収ではなく、住民負担の軽減であり、住民負担の軽減は、住民サービスです。住民の生活支援のために、税金を減らすのです。相次ぐ様々な負担増に対し、住民のために、自治体独自でできる減税を、今こそ始めましょう。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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