今年のアカデミー賞の授賞式は3月10日(日本時間11日)にハリウッドで行われたが、『オッペンハイマー』が、作品賞、監督賞、主演男優賞など7部門でオスカーに輝いた。

■「バーベンハイマー」

この映画は、人類初の原子爆弾の開発に成功した物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの物語である。原爆がもたらした破壊力に愕然としたオッペンハイマーは、その後は水素爆弾の開発に反対するようになり、栄光の座から転落する。

この映画は全米で昨年7月に公開されたが、日本では半年以上遅れて、この3月29日に公開される。オッペンハイマーの手によって完成した原爆が、直後に広島と長崎に投下されたことから、日本人の国民感情に配慮してからか、大手配給会社が公開に手を挙げなかったのである。これまでは、話題作はアメリカとほぼ同時に公開されていた。

全米で公開されたとき、同時期に公開された女性の権利をコメディ仕立てにした『バービー』と組み合わせて「バーベンハイマー」という造語まで作られたのも不利な状況に輪をかけた。

さらに、映画では、広島、長崎での原爆の惨禍については十分に描かれておらず、それもまた批判を呼びかねないと懸念されたのであろう。

ユダヤ人であるオッペンハイマーは、ナチスよりも先に原爆を完成させねばならないという決意であった。