フィリップ・グラス”The Triumph of the Octagon”。直訳すると”八角形の凱旋”。シカゴやムーティと仲良しのグラスが2023年9月にムーティに献上した新曲。
南伊出身のムーティが子供の頃に訪れて感動した”カステル・デル・モンテ”。ローマ帝国後半にフリードリヒ2世が立てた八角形の城に、リッカルド少年は感動しずっと記憶に残っていて、シカゴ響のオフィスにもこの城砦の写真ずっと飾っていたそう。この写真を見たグラスとムーティがおしゃべりする中で、この新曲が誕生した。
グラスらしいミニマルを基調とした反復とアレンジ。下手なオケや指揮者だと確実に飽きるだろう10分間が、ムーティの棒とオケだと、驚くほど饒舌に意義深く、音の一つ一つに意味が投影されて感動する。シンプルが最も難しい、というのは、食やモードなどあらゆるアートに共通するのだろうけれど、それの見事なまでの完成形に触れた、ものすごく貴重な時間。
客席には、作曲家の姿。自分の作品に、贈った相手が主兵オケを通して信じられないほど美しい命を与えてくれている瞬間を体感できるって、どんな気持ちなのかしら。ヨーロッパツアー帯同してるんだろうなぁ、いいなぁ。
メンデルスゾーン”シンフォニー4番イタリア”。”クラシック100選”なんかに選ばれそうな名曲中の名曲だけど、まさかこんなに素晴らしい曲だったとは・・・と、ある意味、今日一番の感動。
端正でエレガントなのは、ムーティーのデフォルト。そこに、小規模編成ならではの、奏者一人一人の魅力を存分に引き出したイメージ。4本しかないコントラバスは音量は普通なのになぜかお腹にずしんと響くし、高音弦は乱れなく軽やかにチャーミングに、イタリアの太陽のごとく朗らかに。
圧巻は、フルートとクラリネットのソロ。フルートは入った瞬間に雲の隙間から太陽光が差し込むように鮮やかに艶やかにその音色を輝かせるし、クラリネットの超絶技巧かつ伸びやかでクリアな音色は信じられない美しさ。クラ主席、この曲だけの演奏でもったいない。次もこの人のソロで聴きたかったなぁ。(2020年のブログ見返したら、この時も彼を絶賛していた。最後にリンクあります)