私は当時、そのクロプシー氏に直接に会い、さらなる解説を問うてみた。同氏は以下の諸点を一気に語った。
「日本の憲法の問題についてはこれまで長い期間、アメリカ人の間でも意見が分かれてきました。日本が自主憲法を制定し、普通の国家になることにもっとも懐疑的なのは、やはり第二次世界大戦を経験した私の両親の世代だったでしょう。ジョージ・H・W・ブッシュ大統領はおそらくその世代の最後の大統領です。しかし日本との戦争が遠くなればなるほど、アメリカ人の間では『日本も他の国とまったく同じであり、完全な信頼に値する』という考えが広がったわけです」
「日本憲法は日本国民の思考と、他の諸国の人たちの思考との間に人工的な境界線を引く結果となっています。論理的な思考をする人間がなぜ独立国家がいかなる力の行使も、いかなる戦争も悪だと断定して、機能していけると信じられるのか、理解できません。自分が凶悪な人間に襲われたり、自分の子供が暴行を受けたりする場合を考えれば、真理は明白でしょう」
クロプシー氏のこんな言葉は日本にとって辛辣だが、国際的な常識に近いとも感じた。確かに自分自身が暴漢に襲われても、抵抗や反撃のための力の行使は一切、してはいけないとなると、人間の生存本能にさえ反している。まして自分が愛する家族が目前で暴漢に襲われそうになっても、それを阻むために力の行使はできないというのは、人間の自然の摂理に反する主張だろう。
とにかく32年前のアメリカですでにこんな提言が出ていたのである。そして残念なことに、そんな昔の指摘がいまの日本にもそっくりそのまま当てはまるのだ。
岸田首相の訪米を機に日米両国間の関係の基本を再考するとなると、この日本の憲法の異端、そしてその異端がアメリカ側でどうみられているか、という実態を改めて直視せざるをえないだろう。そんな考慮からあえて古い資料を再現したわけである。
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古森 義久(Komori Yoshihisa) 1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2024年4月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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