「転落したというかたちで労災で処理したい」

 上田さんの母親、直美さんの代理人を務める、いわき総合法律事務所の岩城穣弁護士はいう。

「初めての長期海外出張で負荷がかかり、言葉も通じないなか、会社側は上田さんの労働環境に細心の注意を払うべきでしたが、あらゆる面で行き当たりばったりの対応になっていたという印象です。会社側は当初、月の残業時間は80時間ほどだと主張していましたが、ホテルの自室に帰ってからの業務時間や移動時間などを含めると140時間を超えており、労働時間の管理がきちんとなされていませんでした。長時間労働に加えて連日にわたる上司からの厳しい叱責や、頼りにしていた別の上司の帰国により相談できる相手がいないことなどが加わり、上田さんは最悪の環境に置かれていました」

 上田さんが亡くなった後の会社側の対応にも不信感を抱く点があったという。

「防犯カメラの映像には上田さんがプラント建屋の柵を乗り越える様子が映っていましたが、会社の担当者は上田さんのお母さまのところへ説明に来た際に『会社としては転落したというかたちで労災で処理したい』と告げました。お母さまとしては息子の死因を事実とは異なるものにされるということは到底認められません。

 また、お母さまは当初から第三者委員会を立ち上げてしっかりと経緯を調査してほしいと会社側にお願いしていましたが、会社側は『検討中』『人選中』などと言って1年半以上も放置していました。昨年5月になってようやく第三者委を立ち上げたものの、委員が企業寄りのスタンスでかつ労災事案の経験が少ない弁護士2名のみだったため、私どもは強く抗議するとともに、経験豊富で中立的な立場で調査してくれる弁護士を1名、委員に加えるように要求しました。

 そして第三者委は『自殺か事故死か認定できない』と結論づけましたが、会社側は第三者委に上田さんが亡くなるところが写った防犯カメラの映像を提出しておらず、資料提供も不十分であることがわかりました。このほかにも、こちら側から提出を求められて資料を提出する際に一部を抜いて提出してくるなど、細工をしてくる場面が目立ちました」

 上田さんの母親、直美さんに話を聞いた。

「全体的に会社側の組織としての対応・姿勢には誠意が欠けていると感じました。たとえば第三者委の設置にしても、こちらが『必要ではないでしょうか』とお伝えしても『検討します』とだけ言って、何度も催促していたにもかかわらず1年半以上も待たされ、やっと立ち上がったと思えば『このメンバーでやります』と一方的に伝えられるのみでした。メンバーは会社側が選んだ弁護士さん2名だけで、調査でどのようなことをヒヤリングするのかについて私たちに聞くこともなく、さらに防犯カメラの映像を第三者委に提出しないまま判断が出されてしまいました。会社側は労災認定を受けてメディアの取材に対し『誠意をもって対応する』とおっしゃっておられますが、このような事態が起きた経緯や今後はどのような取り組みをされていくのかについて、きちんと会見を開いて説明する責任があると思います」