南アメリカ北西部に位置するコロンビア共和国。政治的にも社会的にも安定していないため犯罪率が非常に高く、麻薬組織が幅をきかせているため警察の威厳などなくある意味無法地帯と化している。90年代、そんなコロンビアで140人以上もの幼い少年たちを誘拐、強姦、殺害した冷酷極まりない連続殺人鬼がいた。実際に殺害した少年の数は200人以上だとも言われているルイス・ガラビートだ。
■消えた子供たち
1999年4月22日、コロンビア中部に位置するビリャビセンシオという都市に住む12歳の少年イヴァン・サボガルは、学費を賄うためにロトリーチケット(スクラッチのようなもの)を売っていた。この日、イヴァンは家に帰らず、「息子に身に何か起こったのではないか」とパニックになった母親が警察に駆け込んだ。懸命に「息子を探して!」と訴える彼女に、ファナンド・アヤという検察官が目を留めた。ファナンドはこの6カ月間、近郊で殺害された13人の少年たちの事件を担当していた。
同時期、ビリャビセンシオだけではなく13州70地域で子供達が次々と消えるという事件が発生しており、当局は少年連続殺人事件として大掛かりな捜査を行っていた。コロンビアと国境を接しているエクアドル共和国でも1998年、14人の少年の遺体が埋められているのが発見され「コロンビアの少年連続殺人鬼の仕業」だと見られていた。少年たちの遺体は、拷問を受けた痕があり、司法解剖の結果、年齢は8歳から14歳であることが判明。一方で腐敗が進み骨の状態で発見されることも多かった。歯科治療記録がないことから貧しいストリートチルドレンである可能性が高いと推測された。
ここ数年でかなり改善されてきたとされているものの、90年代は「過去50年間、世界最悪級」と言われていたコロンビアの治安。そのコロンビアには大人のホームレスはあまりおらず「ホームレスといえば子供」という考えが定着している。そんなホームレスの子供たちがある日忽然と消えたとしても気にかける大人はいない。
捜査当局は最初、少年たちを殺害したのはカルト団、麻薬組織、人身売買、もしくは臓器売買組織の仕業ではないかと睨んだ。しかし、首を絞め殺された際についたとされるナイロン製ロープの組織、現場近くから発見された酒のボトルが全て同じだったため、単独犯の仕業ではないかと見るようになった。1991年から1998年までに発見された同様の少年たちの遺体を調査したところ、似たような状況下で遺棄されていることも分かり、当局は「犯人は1人。連続殺人鬼だ」と断定。捜査方針を大きく変更した。