2007年、あまりにも治安が悪く、残虐な殺人事件の報道に慣れっこになったメキシコ人たちでさえも心底震え上がるような事件が発生した。「詩人・作家・脚本家」を自称する、一見どこにでもいるような中年男性が、「別れを切り出した恋人を殺害し、バラバラに切断した遺体の一部をフライパンで焼いて食べた」というぞっとするようなニュースが流れたのだ。
男は逮捕時、レモンをかけた恋人の腕の肉を食している真っ最中だった。「コンロの上に置かれたフライパンには焼かれた人肉、鍋の中には人肉シチューが料理されており、冷蔵庫の中には丁寧に骨を抜いた脚や腕の人肉が保管されていた」という報道内容に、吐き気を催すものが続出した。アステカ文明には儀式を目的としたカニバリズム風習があったとされるが、それははるか昔のこと。近代メキシコで起きたカニバリズム(人肉嗜食)事件に、国民は大きな衝撃を受けた。
事件を起こした犯人は、自称作家で詩人、脚本家のホセ・ルイス・カルバ。彼は一体、どのような人生を送ってきたのだろうか。
■母に虐待され続けた子供時代
1969年6月20日、ホセはメキシコの首都メキシコシティに誕生。2歳の時に父親は死亡。若くして娘3人、息子2人の5人の子持ち未亡人となった母親エリアに育てられた。エリアは横柄かつ傲慢な女性で、しつけと称して子供たちを殴るなど肉体的な虐待は日常茶飯事。自宅に次から次へと男を連れ込んでは子供達に嫌な思いをさせた挙句、その男達を「パパと呼べ」と強要するなど、精神的虐待も繰り返すとんでもない母親だった。
メキシコでは毎年1月6日に「東方三賢者の日」を祝い、子供達はクリスマスと同じようにプレゼントがもらえる。1975年1月、ホセは母親と姉がこの「東方三賢者の日」のプレゼントの用意をしているところを目撃。母親は「覗き見したな!」と怒り狂い、「罰」だと叫びながらホセを殴り、彼へのプレゼントを床に叩きつけて粉々に破壊した。
この仕打ちにホセはショックを受けたが、理不尽なことばかりする母親には慣れていたため、「だったら自分で自分に”東方三賢者の日”のプレゼントを贈ろう」と決意。近隣住民たちに「靴磨きをさせて欲しい」と頼み、その報酬としてもらった金でおもちゃのトラックを購入した。
わずか5歳で、自分で働いた金で自分の好きな物を買うという喜びを味わうことになったホセだが、その喜びは長続きしなかった。おもちゃのトラックが母親に見つかり、どうやって手に入れたのかがバレてしまったのだ。母親は「恥さらしだ!」と大激怒し、そのおもちゃを破壊。ホセに激しい折檻を加えたのである。
翌1976年、ホセは当時16歳だった兄の友人に押さえつけられてアナルを強姦された。母親の虐待もますますエスカレートし、ホセは地獄のような生活を送っていたが、1981年に突如解放される。母親が、まだ12歳のホセに「家を出て行け」と命じたのだ。