「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

年末年始はクリスマスや正月もあり、家庭の食卓にも華やいだ料理が並ぶ。年が明けて「松の内」を過ぎると通常の食卓に戻っていき、即席食品の消費も増えるという。
2月は、どうなのか。昔から小売業界には「二八」(ニッパチ)という言葉があり、2月と8月は消費が低迷する月といわれた。8月は旅行や帰省需要もあるが、1年でも寒い日が続く2月は、行楽や外食など消費マインドも冷え込みがちだ。
そこで今回は、家庭の食卓に登場機会が多い「ふりかけ市場」に焦点を当ててみた。2020年から続くコロナ禍を反映して、“巣ごもり特需”が見られたり、通勤減や旅行の制限で“手作り弁当需要”が減ったりするなど、消費生活の変化にも左右されてきた。
同売り場には、ドライ(人気は「のりたま」「おとなのふりかけ」「ゆかり」)、混ぜごはんの素、ウェットなどの商品が並び、市場規模は400億~500億円台といわれる。
今回は、おむすび・混ぜ込み用ふりかけ市場首位の「混ぜ込みわかめ」(丸美屋食品工業)を取り上げた。マーケティング担当者に顧客戦略を聞きながら、消費者心理も考えてみた。
おむすび・混ぜ込み用では圧倒的に強い
ふりかけのドライタイプで人気は、前述の「のりたま」(丸美屋食品工業)、「おとなのふりかけ」(永谷園)、「ゆかり」(三島食品)だが、おむすび・混ぜ込み用は以下となっている。ベスト10のうち8商品が入る、丸美屋「混ぜ込みわかめ」が圧倒的に強いのだ。
【「おむすび・混ぜ込み用ふりかけ」の売れゆきランキング(2022年1-12月)】
(1)「混ぜ込みわかめ 鮭」(丸美屋食品工業)
(2)「混ぜ込みわかめ 若菜」(同)
(3)「混ぜ込みわかめ 梅じそ」(同)
(4)「混ぜ込みわかめ」(同)
(5)「混ぜ込みわかめ しらす」(同)
(6)「混ぜ込みわかめ おかか」(同)
(7)「炊き込みわかめ」(三島食品)
(8)「ひろし」(同)
(9)「混ぜ込みわかめ 和風ツナマヨ」(丸美屋食品工業)
(10)「混ぜ込みわかめ 香るごま油味」(同)
(出所:各方面への取材を基に筆者作成)
「『混ぜ込みわかめ』発売は1988年8月で、今年で35年となります。わかめや具材を手軽にとれる素材系として人気ですが、発売直後にブレイクしたわけではありません」
丸山すみれさん(マーケティング部 ふりかけチーム 課長)は、こう説明する。丸山さんはマーケティング歴20年超で入社以来、ふりかけ市場の流れとも向き合ってきた。

「ごはんへの注目」や「節約志向」で売り上げが拡大
「混ぜ込みわかめの使われ方は、ほぼ、おにぎり用です。味は、鮭や梅じそなど定番から新味まで26種類(2023年2月現在)あり、近年も新商品を投入しています。発売当時は『おむすび山』(ミツカン)の全盛期で、混ぜ込みわかめは徐々に浸透していきました」(丸山さん)
おむすび山の発売は1982年、あたたかいごはんに混ぜれば、おにぎり(おむすび)がつくれる斬新さで人気を呼んだ。ベスト10を紹介した前述のランキングでは、12位に「おむすび山 鮭わかめ」が、13位に「おむすび山 青菜」が入っている。
だが80年代、丸美屋は「おむすび山」の対抗商品をしばらく投入しなかった。当時の社内には「(看板商品の)のりたまで、おにぎりはつくれるでしょ」という気風があったという。
88年の発売から十数年後におむすび山を逆転したが、過去の売上拡大期は複合要因があった。
「1993年に記録的な冷夏によるコメ不足でタイ米を輸入したり、97年に消費税の税率が3%から5%に上がったりするなど、ごはんへの注目が高まったり、節約志向が強まるなどのタイミングで、売り上げが拡大していきました」(同)
現在、商品シリーズ全体の売り上げは70億円近くあり、シリーズ全体では、ふりかけ首位の「のりたま」を上回る。
