『SusHi Tech Tokyo 2024』のプログラムの一環であるグローバルスタートアッププログラムが、5月15・16日に開催された。
この国際的なイベントでは『SusHi Tech Challenge 2024』というピッチイベントも同時開催。世界43の国・地域の507社からファイナリストの1社に選ばれ、複数の特別賞を獲得したのがEntomal Biotech Sdn. Bhd(以下、Entomal Biotech)というマレーシア発スタートアップだ。
同社はブラック・ソルジャー・フライというハエの力を借りて、廃棄された食料を資源に変える取り組みを実施している。
食品ロスは各国共通の問題
「食品ロス」は、世界各国の課題だ。
消費者庁によると、日本では2021年に523万トンもの食品ロスが発生している。この量は「世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食料支援量(2021年で年間約440万トン)の1.2倍に相当」する極めて膨大な量である。しかもこれは、日本だけの排出量だ。
スーパーマーケットも、作った食品が売れずに賞味期限を迎える段階になればそれを捨てざるを得ない。コンビニエンスストアで販売されている弁当も、従業員に配布するという手段もあるがそれは微々たるもの。ほとんどの食品は廃棄物として処理されていく。
現代の飽食は、食品ロスと隣り合わせであることを我々は思い出す必要がある。にもかかわらず、人類は未だ異常気象による不作から端を発する食料危機を完全に克服していない。
こうした機運の中、Entomal Biotechはハエの力を借りて生物廃棄物の処理と有機副産物のアップサイクルに注力している。
ハエの幼虫は「万能選手」
Entomal Biotechは、ブラック・ソルジャー・フライの幼虫(いわゆるウジ虫)の飼育事業を行っている。
ここに1本の動画がある。大量の幼虫を入れた容器の中に、魚を1尾入れる。すると、たったの24分ほどで魚が骨になってしまうのだ。これを食料廃棄物に対して行えば、たちまちのうちに幼虫が廃棄物を消化してくれるだろう。
それだけではない。幼虫が出す糞は、そのまま堆肥として活用できる。化学肥料が高騰している近年、それに代わる高栄養価の堆肥は農家の強い味方になりそうだ。
「さらに、ブラック・ソルジャー・フライの幼虫はそれ自体が食料にもなります」と語るのは、Entomal Biotechの共同創業者兼CCO、Yanni Xinyan Ching氏である。
今回のイベントで出展されたEntomal Biotechのブースには、何やら奇妙な瓶があった。見てみると、中に詰まっているのは乾燥した幼虫ではないか!
「食べてみてください。美味しいですよ!」
Yanni氏にそう勧められてしまった筆者は、恐る恐るウジ虫を口にする。
最初は味がしない。中はどうやら空洞のようで、いとも簡単に嚙み砕くことができる。そのうちに味がした。これはまるで大豆のようだ。なお、筆者の隣にいた大学生も怪訝な表情で幼虫を食べていた。彼はまさか、このようなイベントで幼虫を食べることになるとは考えていなかっただろう。
しかし、確かに美味しい! 見た目に難があるというなら、これをクッキーなどに加工する手もある。
幼虫にはタンパク質と脂肪分など、豊富な栄養が含まれている。これはすなわち、食料廃棄物で新しい食料を作るという意味でもある。