年次有給休暇が義務化される!
この4月1日から施行された「働き方改革関連法」。その目玉の一つが年休についての改正だ。年休取得が義務化され、社員が年休を取らないと会社が罰せられるなど、ルールが厳しくなるという。具体的にどう変わるのか。そして、このような法規制が導入された背景とは? 労働法の専門家である布施直春氏に、近著『「働き方改革関連法」早わかり』より、「年休の新ルール」についてうかがった。
社員を「もっとしっかり休ませる」ために
「日本人の年休消化率が低い」というのは、以前からずっと指摘されていたことでした。
2010年(平成22年)6月に閣議決定された「新成長戦略」では、年休の取得率を2020年までに70%にすることが政府目標とされています。
しかし、2017年の年休の平均取得率は51・1%(平成30年「就労条件総合調査」)。なんとか50%を上回ったものの、目標までにはまだまだ遠いのが現状。また、正社員の約16%が年休を1年間に1日も取得していないという調査結果もあります。
このような状況を改善すべく、「働き方改革関連法」では、年休の取得を進めるため、使用者に、従業員に対して年休取得の時季を指定して取得させることを義務づけることとなったのです。具体的には、1年間に10日間以上の年休を付与される労働者に対し、そのうち5日の年休について時季の指定が義務づけられます(時季とは法律用語ですが、ほぼ「時期」と同じだと考えてください)。
つまり、「会社は10日以上年休がある人に、必ず5日以上休みを取らせなさい」となったのです。
そもそも「年休」って何か、知ってますか?
さて、そもそも、年休とは「年次有給休暇」の略称で、会社によっては「有給休暇」と呼んでいるところもあるかと思います。
年休は、会社がその人を雇い入れてから最初の6カ月は与える必要はありませんが、入社から6カ月経過後に、その6カ月間の全労働日の8割以上出勤した人に対して、10日間の年休を与えるというのがルールとなっています。
毎年徐々に与えられる日数が増えていき、勤続6年6カ月で上限の「1年間に20日」に達し、その後はずっと1年20日のままです。
要注意!年休には「時効」がある
ドラマの中でよく使われる「時効」という言葉。実は年休にも「時効」があるのをご存知でしょうか。より正確には、年休には「消滅時効」というものがあり、労働者の年休請求権は、その権利が発生してから2年間有効ですが、2年を過ぎると消滅(失効)してしまうのです。
たとえば、入社し6カ月間継続勤務した従業員は、前述したように1年間に10日間の年休を取得できます。その後、1年経つと今度は11日の年休を取得できます。もし、それらをまったく使わなかったら、入社から2年6カ月を迎える直前の時点で、その人の年休は21日、ということになります。
そこに、今度は12日の年休が与えられるわけですが、年休は2年過ぎると消えてしまいますので、最初の年に与えられた10日間は、2年6カ月を超えた時点で消滅します。
つまり、年休は「10+11+12=33日」ではなく、「11+12=23日」ということです。
どんなに休まずに働いても、上限は6年6カ月以降に与えられる20日+20日の40日以上は増えない、ということです(もちろん、会社が自社の判断でそれ以上の年休を与えることは可能ですので、その場合は、この限りではありません)。
先ほど、日本人の年休の平均取得率は5割程度、というお話をしました。こうして取得されない年休は、2年ごとにどんどん消滅してしまっているわけです。
「休みたい社員」vs.「休ませたくない会社」
さて、この「年休を取る権利」ですが、労働基準法においては「労働者の請求する時季に与えなければならない」とされています。
つまり、年休をいつ取るかは原則、個人の自由。ただし、使用者には「請求された時季に年休を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」における「時季変更権」が認められています。これは、休みを取らせないのではなく、請求のあった日とは別の日に変更させる権利です。
ご想像のとおり、ここがトラブルになりがちなところではあります。すなわち、「休みたい」と「休まれては困る」のせめぎ合いです。
会社が「時季変更権」を行使できるのは、請求のあった日に年休を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます。
では、何が「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するのかについては、ひと言で言うのは難しいのが現実です。過去の判例でも、その会社の規模やその社員の業務内容などから客観的に判断すべきとなっています。
会社が「休みを先延ばしさせることができるケース」とは?
ただ、いずれにしろ、その人の担当する業務が年休を取ろうとする日の業務運営に不可欠で、代わりの人を確保するのも困難であることが条件です。単に忙しいというだけでは、「時季変更権」行使の正当な理由にはなりません。
たとえば、その社員が情報システム部に所属しており、毎月最終日に行うシステムの更新作業はその人がいないと進めることができないという状況だとすれば、月の最終日にその人が休みたいと言ってきても、会社側は「別の日にずらしてほしい」とお願いすることは、認められると考えられます。
ただし、その作業ができる人が他に何人もいる、という状況で、「いなくても大丈夫だが、いてくれたほうが助かる」というくらいなら、時季変更権を行使するのは難しいでしょう。
与えられた半分の年休しか取らない日本人
さて、このルールによれば1年に最大20日ほどの年休を取得できるようになるわけで、そのタイミングも働く人が自由に選ぶことができます。にもかかわらず、日本人の年休の平均消化率は50%程度。つまり、日本のビジネスパーソンは年休を半分くらいしか取っていない、ということなのです。
海外の、特に、ヨーロッパの人は年休をほぼ使い切るのが普通です。日本人はその点、義理堅いのか、それとも休むことに罪悪感を抱く人が多いのか、はたまた仕事が多すぎるのかわかりませんが、年休取得率がなかなか上がらない。そのため、法律で半ば強制的に年休を取らせるというのが今回の法改正ということで、日本ならではの特殊事情ということになるかもしれません。
「年休の時季指定」とはつまりどういうこと?
さて、今回の法改正で義務化された時季指定ですが、実は年休の時季指定に類似する制度は、以前からありました。たとえば「夏休み」ということで全従業員一斉に3日間、決まった日に休みを与える、などです。
これは、「年休の計画的付与(計画年休)」という制度です。各従業員が取得できる法定の年休のうち「5日を超える日数分」については、会社が全従業員に日にちを指定して与えることができる、とされています(就業規則の変更と労使協定の締結が必要)。
たとえば、年休が15日ある従業員であれば、5日分は従業員自身が自由に日にちを決めて取得できますが、残りの10日分については、会社が計画にもとづいて年休を与える日にちを指定することができる、ということです。
ちなみにこの計画年休は必ずしも全社で同じ日にしなくてはならないものではなく、部門ごとに決めたりすることも可能です。
重要なのは「任意から義務」へ
ただ、この制度を使うかどうかは会社の任意でした。つまり、今回の法改正は「そのうち5日分については必ず時季を指定して年休を与えなさい」ということです。
もし、すでに計画年休制度のある会社ならば、時季を指定すべき5日間からその分が除かれます。つまり、元々あった計画年休制度により2日間の年休が与えられるのなら、残り3日間となります。
「会社が勝手に休みの日を決める」というわけではない
とはいえ、「会社に勝手に休みの時期を指定されるのは困る」という人もいるでしょう。
今回の法改正では、使用者がこれらの規定に基づき年休を与える場合は、あらかじめ、労働者に対して年休の取得時季に関する意見を聴取し、聴取した意見を尊重するように努めることが省令で定められています。
つまり、会社側が一方的に「○月○日に休んでください」と決めるのではなく、事前に社員の意見や予定を聞いた上で「ではこの日に休んでください」とするのも、時季の指定となります。
また、年休をすでに5日以上取得している社員に対しては、時季指定は不要です。
さて、以上が休暇制度の変更点のあらましです。こうした制度の変更も必要ではありますが、ワークライフバランスが求められるようになる中、休みを取ることは決して後ろめたいことではない、という風土を作り上げていくことが大事になってくると思います。
(『「働き方改革関連法」早わかり』より一部加筆・修正)
「働き方改革関連法」早わかり
いよいよ2019年4月1日施行開始!「働き方改革関連法」の内容をコンパクトに解説する、入門書の決定版が登場。「残業時間に上限ができる」「年休取得が義務化される」「残業代が高くなる」「高度プロフェッショナル制度が導入される」「フレックスタイム制が柔軟になる」「パート、契約社員、派遣社員の扱いが変わる」……これら今回の法改正には、はたしてどんな意味があるのか。そもそも、元々のルールはどういうもので、それがどのように変わるのか。それを、人事などの専門家向けではなく、あくまで一般社員向けに説く。一般社員にとっては、自分たちの権利を守るため。そして経営者や管理職にとっては、法違反をしないために。「新しい仕事のルール」の一番わかりやすい入門書(『THE21オンライン』2019年04月02日 公開)
文・布施直春(労務コンサルタント)/提供元・THE21オンライン
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