コロナよりも深刻な交通の利便性

 しかし、なぜ汐留のゴーストタウン化が囁かれることになったのか。

「当然、新型コロナウイルスの影響もあるでしょう。汐留は、最先端企業の本社機能が集結したことで発展を遂げましたが、そういう企業ほど働き方改革に前向き。コロナ禍が落ち着いた後もテレワークを推進し、電通では最近の出社率は約30%程度だと聞いていて、最近では空いた部分に関係子会社を集める事態になっています」(同)

 ただし、衰退の要因は、コロナよりも街づくりの設計の問題のほうが大きいという。

「これは開発当初から指摘されていた問題なのですが、汐留エリア内には交通利便性に大きな欠点があります。地図で俯瞰するとよくわかりますが、汐留は首都高速道路と線路に挟まれたエリア。新橋側から汐留側に進むと、浜離宮に突き当たり、通り抜けることができないため、人の流れが生まれません。

 また、各街区の間には広い通りがあり、街区をまたぐ際に渡る必要がありますが、これがしんどい。街区の間は歩道やデッキでつながっているだけで、目に入る風景はビルばかりで無味乾燥なもの。大江戸線の地下通路が深く、汐留駅から街区に出るまでの道のりが長いことも相まって、地図上ではそうでもないのですが、目的地に着くまで、体感として非常に長く感じる。汐留エリアで働いていたときには、交通利便性に関する不満の声を多く聞き及んでいました。ここ10年間は、汐留よりも利便性の高いエリアで、次々と超高層ビルが建設されています。そのため、汐留にオフィスを構える利点が減少し、本社機能の移転が相次いでいるのでしょう。これはいわば、2000年初頭頃の汐留に対する期待値と現実が乖離した結果だともいえますね」(同)

 汐留にオフィスを構えてみたものの、実際に生活してみて、不便な点に気づいていったというわけか。また、街の設計の問題は波及し、衰退を加速させる要因となっているという。

「街全体を回遊するような設計になっていないため、街区としての賑わいが創出できないのも問題です。各街区はデッキでつながっていますが、大企業の本社ビルやテナントビルが並んでいるだけで、街区を移動する動機がありませんし、人の流れも生まれません。街区全体が殺風景な印象で、往来して楽しめるような環境が整っていないのです。また、夜に飲みに行く際は、会社から少し離れたエリアに行きたいもの。近くには雑多なお店が集まる新橋の飲み屋街がありますので、カレッタ汐留を選ぶ人も限られます」(同)

 立派な建物を個別に建設した結果、街全体のシナジーが生まれなかったわけだ。