完全閉鎖系施設バイオスフィア2の悲劇  

 テキサスの石油王エドワード・バスが資金提供を行い、アリゾナ州オラクルに作られたバイオスフィア2は、総面積1万3千平方メートル(1.2ヘクタール)にもなる完全密閉された巨大な温室だ。砂漠から湿地、農地といった各種の環境に4000種類の動植物が放たれ、コンピュータ管理された空調、太陽電池を使った電力供給(一部は外部に依存)といった、一種の超小型スペースコロニーが作られたのだ。なぜ名前がバイオスフィア2なのかといえば、バイオスフィア1は地球を指すからである。

 バイオスフィア2は狭い。1.2ヘクタールのスペースは広大に見えて、生態圏からすれば狭すぎる。何年もかけて行われる水の循環は1 ~ 2週間に短縮されるが、中にいる生物は地球のサイクルで生きている。そこには齟齬があり、それは予期せぬトラブルを引き起こした。

 1991年9月に8人の男女が施設に入り、バイオスフィア2は外部からロックされた。この中で2年間、自給自足しながら閉鎖系の生物環境について実験と観察を行う予定だった。

 完全に閉鎖され、コントロールされているはずの環境で、最初に植物が枯れ始めた。日照時間が足りなかったのだ。地球であれば、日照時間の足りない土地があっても、他に問題がなければ、作物を輸入するなりすればいいが、バイオスフィア2ではそうはいかない。植物の生育不足はそのまま8人の飢えにつながった。

 蟻とゴキブリが異常に繁殖し、受粉を行うはずだった蜂が全滅、予定していた野菜の収穫に失敗する。

 閉鎖系であるため、ダニのような害虫が出ても殺虫剤が使えないことも拍車をかけた。殺虫剤や除草剤を使えば、その含まれた水を数日後には飲むことになるからだ。石鹸やシャンプーなども使えず、あらゆる化学物質が極力排除された。あまりにリソースが小さすぎるため、わずかな環境の変化が大きな変化になって人間に害を与えるためだ。

『完全閉鎖系施設バイオスフィア2の悲劇』スペースコロニーは実現するのか【ヤバめの科学チートマニュアル=久野友萬】
(画像=Created with DALL·E,『TOCANA』より 引用)

 2年間が終わって出てきた時、全員、体重が9 ~ 23キロも減っていたそうだ。さつまいも、稲、小麦 脱穀、豆、バナナなどを食べ、早々に牛が死んでしまったために肉も牛乳もなく、砂糖も採れず、タンパク質は卵ぐらいしかない、ほぼ完全なヴィーガンでしかもカロリー不足という状態が2年間も続いたのだ。やせて当たり前である。最終的に食料も外部から持ち込まれ、彼らは飢え死を免れた。

 最後には酸素まで足りなくなった。施設内の酸素は空気のおよそ20パーセントだったが、93年には14.2%まで下がった。これは日照時間が短く植物の酸素生産量が不十分だったせいこともある が、一番の原因は建材に使われたコンクリートが酸素を吸着するという、設計時に見落としていたことが起きたためだった。実験継続のため、酸素が注入されたが、いかに閉鎖環境を構築し維持することが困難かがわかる。

 環境が悪化し、飢えが常態化するとストレスは高まる。一般の観光施設としても開放されていたため、8人は常に観光客の目にさらされ、動物園の動物のようだった。やがて8人は2つの派閥に分かれていがみ合い、険悪な状態が続いたという。なんとか2年間の実験は終了したが、わかったことは宇宙に恒久的に住むことは恐ろしく困難で犠牲を伴うだろうということだった。どれだけ計算し、準備しても自然は軽々とそれを裏切る。

 現在も同施設は運営中で、環境問題の研究拠点として機能しており、月や火星での居住実験もこの施設で行われた。

続きは『ヤバめの科学チートマニュアル』(新紀元社)でご覧ください。

『完全閉鎖系施設バイオスフィア2の悲劇』スペースコロニーは実現するのか【ヤバめの科学チートマニュアル=久野友萬】
(画像=『ヤバめの科学チートマニュアル』(新紀元社) 著者:久野 友萬 定価:本体1,600円(税別),『TOCANA』より 引用)

文=久野友萬

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提供元・TOCANA

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