TOCANAにも寄稿いただいていたサイエンスライター:久野友萬氏の新著『ヤバめの科学チートマニュアル』が2024年1月31日、新紀元社より発売された。まさに“ヤバい”内容が目白押しの一冊だが、今回特別にTOCANA編集部イチオシのテーマを抜粋してお届けする。第2回目である今回のテーマは「スペースコロニー」だ。(TOCANA編集部)

『完全閉鎖系施設バイオスフィア2の悲劇』スペースコロニーは実現するのか【ヤバめの科学チートマニュアル=久野友萬】
(画像=『TOCANA』より 引用)

スペースコロニーは理想国家だった

 アニメ『機動戦士ガンダム』で日本人が知ることになった宇宙都市計画で、元々は70年代のカウンターカルチャーが下敷きになっている。

『機動戦士ガンダム』の映画版『逆襲のシャア』では、地球環境が汚染されたので人間は宇宙で暮らそうというのがテーマだが、まさにその通りのことを70年代の科学者たちは考えていた。

 1969年にプリンストン大学のジェラード=オニールが発表したスペースコロニーは、直径6.4キロ、全長32キロの巨大なシリンダーの中に山と海と町を作り、人工国家を建設するという途方もないものだった。月と地球と太陽の引力が釣り合うラグランジェポイントに建設、恒久的な宇宙植民地とするのである。

 当時の世情を反映し、スペースコロニーは理想的な自由国家になるはずだった。世界は権力者と腐敗した官僚主義によって核戦争への道をまっしぐらに進み、科学は人間の幸福ではなく殺し合いの道具を作るための技術だとみんなが信じていた時代だ。

 政治的主張を持つ集団は独自のスペースコロニーを持ち、そこに住めば、わざわざ他の集団ともめごとを起こす必要もない。地球の警察機構が思想弾圧を行うこともない。