金融危機続発を招いた大手銀行の投機

21世紀に入ってから、2000~02年のハイテクバブル、2007~09年の国際金融危機、2011~13年のユーロ圏ソブリン危機、そして2020~21年のコロナショック、さらに2022年に始まったアメリカ銀行危機と、ほぼ4~5年に1度ずつ金融危機が起きています。

その理由は、大手銀行は「絶対に、たっぷりワイロを貢いでやった国が自分たちを潰せるわけがない」と確信して危険な投機に資金を注ぎこみ、中堅以下の銀行は生き延びるために本業でリスクの大きな融資をせざるを得ない状況に追いこまれているからです。

そのへんの事情は次の2枚組グラフからもうかがうことができます。

上段はFIREとも呼ばれる金融・保険・不動産業界からのロビイング投資が2000年以降全産業のロビイング投資より高い成長率を維持していることを示しています。

不動産業界ではあまり伸びなかったのですが、医療・健康保険業界大手が健康保険の国民皆保険化を阻止するために大口献金をしたのと、中小銀行の吸収で資金力が高まった大手銀行がサブプライム住宅ローンの証券化などをやりやすくするために献金したからです。

そして、2003年頃まではロビイングの伸びにつれて住宅ローンの証券化販売も増えていたけれども、2004年以降横ばいからやや下降気味になったことがわかります。

ロビイングを熱心にやっていた大手銀行が「サブプライムローンはかなり高金利なので持っていれば大きな金利収入になるし、焦げ付いたら国が救ってくれる」と考えて、証券化によってリスク回避する必要を感じなくなったためです。

連邦準備制度の利上げで事態は一変

このあくどいなりに安定した収益をあげていた銀行業界に波乱が起きたのは、2022年春から連邦準備制度が連続的な金利引き上げに取り組んだためです。

それまで、銀行業界としては融資や投資で稼ぐ利回りが低くても、当座預金はもちろんのこと、定期預金でもほぼゼロ金利で済んでいたため、低いながらも安定的にプラスの利ざやを稼げていました。

ほとんどの機関投資家が投資と投資のあいまに遊休資金を入れておく財布代わりに使っていただけのマネーマーケットファンド(MMF)が、連邦準備制度によるフェデラルファンド金利引き上げに連動して、とんでもない高利回り商品になってしまったのです。

上段は、MMFの利回りがフェデラルファンド金利とぴったりくっついてゼロ金利から4%超の高金利商品へと変貌した過程を描いています。

下段は、MMFが主要な運用法としているリバースレポの利用が2022年後半から常時2兆ドルを超えるほど大きくなったことを示しています。

リバースレポとは、手持ちの米国債を一晩連邦準備制度に「貸す」だけで、フェデラルファンド金利プラス1%の利回りを日割り計算した分だけ翌日には安く買い戻すことができる制度のことです。

MMFの運用者はどっとリバースレポの利用に資金を注ぎこむことができますが、銀行は長短様々な期限でかんたんに換金することはできない対象にも融資をしているので、同じように高金利を稼ぎ出す方法はありません。

というわけで、アメリカ中の商業銀行の預金総残高が、次のグラフで見るとおり激減してしまいました。

アメリカで現在進行中の銀行危機は、決して個々の銀行で運用が拙劣だったために損失が膨らみ破綻にいたったという話ではありません。

中堅クラスで商業不動産開発や商工ローンを地道に拡大してきた銀行が、いっせいに預金の大量引き下ろしに対応するための流動性が確保できずに、綱渡りのような資金繰りを強いられているのです。

預貸率(預金中で融資に回している金額の比率)は50%台にとどめて投資や手数料や顧問料などに依存している大手は、比較的被害が少ないようです。それもこれだけ銀行危機が深刻になっても、まだ株式市場がボックス圏の取引きで済んでいるからこそです。

株価がはっきり下落方向に動き出したら、アメリカの銀行業界は総崩れになるでしょう。

もうひとつ注意すべきことがあります。それは個人投資家もひんぱんにMMFを利用するようになってから、預金は瞬間蒸発とも言えるほどあっさり短期間に消えるようになったことです。

預金は瞬間蒸発する

今のところ最新の銀行破綻犠牲者であるファースト・リパブリック銀行は、去年12月末の時点では全米商業銀行中第16位で、1764億ドルの預金残高を持っていました。

ところが、今年3月に預金残高第20位だったシリコンバレー・バンクが破綻してから、急拡大を続けた企業体質の類似性もあって「あの銀行も怪しい」という疑惑を招き、3月中旬にまず株価が急落しました。

次の2枚組グラフの下段中央あたりの大幅な下げです。

その後下げ止まって、4月末まではほぼ横ばいを保っていましたが、今年第1四半期(1~3月)の決算で預金残高が激減したことが露呈して、結局5月1日には連邦預金保険公社の保障のもとでJPモルガンに救済合併されることになりました。

どれくらい大きな預金減少だったか、それがどれほど大きく株価に影響したかを図示したのが次の2枚組グラフです。

去年の12月末には1764億ドルだった預金残高が、たった3ヵ月で約700億ドル減少していました。しかも、これはJPモルガンなど大手銀行数行による300億ドルの協調融資が預金というかたちを取ったので、300億ドル上げ底された数値です。

つまり、たった3ヵ月(そのほとんどはシリコンバレー・バンクの破綻以降)で約1000億ドルの預金が流出していたのです。その結果、株価は約20分の1に下がっていました。

現在もウエストパック銀行が末期のファースト・リパブリックと似たような株価の動きをしています。