なぜドライバーからのキャンセルに対応しないのか?

Ola Cabsのアプリの評価コメント、またX(旧Twitter)の公式アカウントへのリプライなどを見ると、ドライバーからのキャンセルについての非難コメントが多く寄せられている。

Ola Cabsのドライバーがキャンセルを続けることを非難しているX(旧Twitter)のポストの例

東南アジアを中心に使われている配車サービス「Grab」、中国のDidiをはじめとした各国の配車サービスは、ドライバーからのキャンセルにペナルティを課しているところが多い。

しかし、Ola Cabsにおいては、2024年4月時点では、ドライバーからキャンセルした場合でも、ドライバーにペナルティはないようだ。

※Uberは提供国によるようだが、調べた限りではインドで提供されているUber(Uber India)ではペナルティがないようである

これはどうしてだろうか。

おそらく、現在はOla Cabsにとってドライバーを増やすフェーズなので、サービスの質を向上させるよりもドライバーへのマイナスを減らし、ドライバーになりたい・続けたい人を増やしたいということではないだろうか。

つまり、現在発生している「ドライバーからのキャンセル」という事象・顧客からの批判に対しては、意思を持って対応していないのだろう。

プラットフォームサービスであるOla Cabsは、ドライバーと乗客どちらもがお客さんである。乗客の「ドライバーからのキャンセルが多い」という批判に全力で対応し、ドライバー側にペナルティを課すような施策を実施した場合、顧客満足度は上がるかもしれないがドライバー側としては不都合だ。

ドライバーからのキャンセルがしづらく儲けづらい、となるとOla Cabsのドライバーになりたがる人は増えない。

そうすると、配車数は増えず、結果「車がつかまらない」サービスとして乗客の体験が悪くなることにつながるわけだ。

Ola Cabsの試行錯誤

しかし、このキャンセル問題にOla Cabsがまったく対応していない、というわけではない。

2023年5月28日、Ola Cabsは「Ola Prime Plus」という新しいサービスをバンガロールでローンチした。

このサービスの最も大きな特徴は、ドライバー側からのキャンセルが不可能であることだ。これにより、利用者はより安心してサービスを利用することができるようになっている。

2023/5/31の筆者のOla Cabアプリのスクリーンショット

最初は一部の乗客に向けたパイロットプロジェクトとして始まり、現在ではバンガロール、ムンバイ、プネー、ハイデラバードの4都市で展開されている。

「Ola Prime Plus」の価格は他の選択肢よりもやや高い。また配車数も少ないためいつでも利用できるわけではないが、筆者にとっては、「ドライバーからのキャンセルがない」ということは大きな安心であるため、積極的に利用している。

※「キャンセルがない」以外に「高品質」を謳っているサービスだが、ドライバーの対応品質や車内環境などに、相対的に悪い点はないものの際立った点はないと感じた(筆者主観)

Ola Prime Plusの車は、ヘッドレストにこのようなカバーがついていることがある:筆者撮影

先述の通り、乗客優先の施策ばかり行うのは良い手ではない。ただ、乗客視点での明確な問題を放置することによるブランドイメージ毀損などのリスクもある。

多少多くのお金を払ってでも高品質なサービスを求める人が多い都市部では、穴埋め的にサービスを提供して、バランスをとっているのだろう。

加えて「キャンセルなし」は新興の配車サービスである「BluSmart」が売りとしている点でもある。

BluSmartは2019年1月に創業されたスタートアップで、市場に占める割合はとても小さいが、サービスを提供しているバンガロールとデリーエリアでは存在感を示している。

参考記事:【レビュー】インドの新興配車サービス「BluSmart」は、なぜ高品質なサービスを提供できるのか? | Techable(テッカブル)

Ola CabsはBluSmartの「キャンセルなし」のモデルをベンチマークし、「キャンセルなし」サービスのポテンシャルを探っているとも考えられる。

街中を走るBluSmartの車:2023年1月24日に筆者撮影

インドのライドシェア市場は、今後も技術革新と消費者ニーズの変化に応じて進化を遂げることが予想される。現在大きなシェアを占めるOla Cabsは、その変化を牽引し、市場全体の拡大に寄与していくことだろう。今後の動向に注目だ。

【著者プロフィール】

滝沢頼子/株式会社hoppin
東京大学卒業後、UXコンサルタントとして株式会社ビービットに入社。上海オフィスの立ち上げ期メンバー。
その後、上海のデジタルマーケティング会社、東京のEdtech系スタートアップを経て、2019年に株式会社hoppinを起業。UXコンサルティング、インドと中国の市場リサーチや視察ツアーなどを実施。インドのバンガロール在住。