米国下院が、遂にウクライナ、台湾、そしてイスラエルの三者に対する巨額の財政支援を採択した後、ジョンソン下院議長がイスラエルを支援することは「聖書の教え(Biblical admonition)」だと説明したことが話題となった。これは比喩でもなんでもない。ジョンソン氏自身も属する共和党右派系では、米国南部の宗教右派は、大票田の支持母体である。ルイジアナ州選出のジョンソン氏は特に、福音派系の政治団体の法律顧問の経歴を持ち、実際に非常に宗教的な人物であり、これまでも演説で頻繁に聖書にふれてきている経緯がある。つまり大真面目に、聖書の教えに従って、イスラエルを支持し続ける覚悟なのである。

これに対して、コロンビア大学から始まったパレスチナと連帯する学生のエンキャンピング運動が、その他の大学にも波及して、大きな盛り上がりを見せ始めている。イスラエルだけでなく、聖書の教えにしたがってイスラエルを支援し続ける米国のエスタブリシュメント層も、彼らの批判の対象だと言ってよいだろう。

アイビーリーグの大学の学費の高額さはよく知られており、裕福な家庭の子息ばかりが通学しているとも言われるが、それでも巨額のローンを抱えている学生が少なくない。物価高の中でローン返済計画を中心に据えながら自らのキャリアを考えなければならない学生にとっては、国際司法裁判所(ICJ)でジェノサイド条約に基づく仮処分措置の命令を受けているイスラエルに対して260億ドルもの巨額の支援を行うのは、「聖書の教え」はもちろん、「リーダーシップ」といった概念でも、説明の付く話ではない。

学生たちは、米国の対ウクライナ政策、対台湾政策についてまで批判する余裕はない。いずれにせよ質の違う話ではある。しかしウクライナに対して608億4千万ドル、台湾を含むインド太平洋地域に81億2千万ドルという巨額の支援は、イスラエル向けの260億ドルとあわせて、好意的に受け止められる話ではない。

問題の根幹は、アメリカに、そのような三正面作戦をする国力があるのか、という大きな疑念だ。果たしてアメリカは、このような態度をいつまで続けていくことができるのか、という大きな不安が、そこにはある。

岸田首相が米国議会で拍手喝采を浴び、米国議員たちに演説を引用してもらうのは、悪いことではない。しかし岸田首相自身が、国内でせいぜい支持率20%しか持っていない。その場の心地よさを優先するような態度で、現実の厳しさを見つめることを怠り、問題を先送りしていたら、いつか必ずしっぺ返しを食らうだろう。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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