アメリカ人へのアピールという点では成功したのだ。アメリカは日本にとって重要な同盟国である。したがって岸田演説を批判するつもりはない。

だがアメリカの力は、本当に世界でリーダーシップを発揮し続けるほどにまで充実しているのか。私には疑念がある。

もしアメリカのリーダーシップには裏付けがなく、国内も混乱していて疲弊しているのが現実に存在している実情だとしたら、どうだろう。日本の首相が、あたかもアメリカ人が、自己の力を疑うのを止め、猛然と邁進してくれさえすれば、世界は上手くいくのだ、といったトーンでまとめてしまう演説を行うことの妥当性にも、疑念が生じざるをえなくなる。

岸田首相は、議会演説において、ウクライナへの支援の重要性と、東アジア情勢の重要性を繰り返し強調し続けた。これは裏を返せば、現在進行形の国際秩序の危機である中東情勢については、全くふれなかった、ということだ。

果たしてこの取捨選択の態度は、持続可能性のある態度だろうか。

ウクライナと台湾については、日米同盟は一致団結していると言えるから、繰り返し参照した。中東をめぐってはそうではないので、参照しなかった。アメリカはイスラエルの最大の支援国である。国連安全保障理事会でイスラエルのための拒否権を乱発して、ひんしゅくを買っている。これに対して日本は、即時停戦決議やパレスチナ国家承認決議などのアメリカが拒否権発動した際の安保理決議案に対しても賛成票を投じるなどの行動をとっている。もっともそれは日本独自の行動というほどのものではない。反対する国が世界でアメリカとイスラエルだけであるような場合に、さすがにそこまではアメリカに追従しない、アメリカとイスラエルとともに世界で孤立することまではしない、という態度である。

だから議会演説において、岸田首相も、ウクライナと東アジアについて繰り返し参照しながら、中東情勢についてはふれることを避け続けた。

岸田演説を称賛する識者の方々も、基本的に同じ姿勢だ。ウクライナと東アジアを語り続け、中東についてはふれないようにしている。日本が米国の「未来のためのグローバル・パートナー」であるのは、ウクライナと台湾をめぐってであり、中東をめぐってではない。

果たして、これはどれくらい持続可能な態度だろうか。