「好奇心」こそ、脳トレの一番の秘訣

年齢とともに、「頭が働かなくなってきた」「記憶力も頭の回転も若い頃より鈍ってきた」と感じる人は多い。脳は、老いには勝てない臓器なのだろうか。それを断固否定するのは、加齢と脳との関係を研究する東北大学教授・瀧靖之氏。脳は「ある条件付きで」年齢を重ねても成長し続けるという。では、その条件とは……?

「何もしなければ」脳の働きは鈍くなる

年齢とともに、頭の働きは鈍くなる。世間ではこれが「当たり前」とされています。確かに数々の研究結果からも、人間の「高次認知機能」──判断力・注意力・記憶力などは、何もしなければ20代後半をピークに落ちてくると言われています。

しかし、それは「何もしなければ」の話。ある条件によりその低下を緩やかに、ときには上昇に転じさせることも可能です。

では、何をすればいいのか。ごく単純に言えば、「脳トレ」です。トレーニングを加えれば、学習能力は何歳からでも再び上がり始めます。

働きかけることで脳は一生成長し続ける──これを「脳の可塑性」と言います。

ところで、脳が成長するとき、脳内ではどんな変化が起きているのでしょう。MRI画像を年代別に見ると、脳は年齢とともに萎縮し、同時に神経細胞やそれをサポートするグリア細胞も減少すると言われています。

しかし、トレーニングをすると「脳のネットワーク」が充実する可能性があるのです。細胞同士をつなぐ道が整備され、スムーズに情報が行き来するようになり、脳の働きが良くなると考えられます。

物事の吸収力は大人よりも幼児期や青年期のほうが上ですから、若い頃より時間を多く取ることが必要です。努力の時間を伸ばしさえすれば、そのハンデを克服できるのです。

私も大人になってから英語を習得しましたし、30代後半からピアノを始めて、今ではドビュッシーの『月の光』にトライしています。

「そんなに努力しなければならないのか」と思われたでしょうか? ガッカリするのはまだ早い。実はこの先に、本当の秘訣があるのです。

大人が子供より勉強を楽しめる理由

子供の頃は、勉強も習い事も「やらされ感」の強いものだったはず。知識の内容も、その背景を考えたりせず、丸暗記的な学び方が多かったはずです。実際、子供の脳はそうした機械的な記憶力に長けていると言われています。

大人はその逆。「丸暗記力」は子供の頃より落ちますが、「連合記憶」=関連する他の知識に紐づけて覚えるのが上手になると考えられるのです。

ですから機械的に覚えるのではなく、ストーリー化させたり、馴染みのあるイメージにつなげたりと、関連づけを意識するのがコツと言えます。

大人が連合記憶に長けているのは、子供より人生経験が豊富だからです。これは、大人の何よりの強みです。学ぶ内容を「味わう」ことができます。

歴史上の事件の重大性、英語の長文のメッセージ、音楽の旋律の響き。それらの意味を感じ取る力があるぶん、学ぶことが楽しいものになり得るのです。

この「学ぶ楽しさ」を感じること、すなわち知的好奇心を持つことが、脳を成長させるための最大の秘訣です。

記憶を司る「海馬」の隣には、感情を司る「扁桃体」があり、両者は密に連携すると言われています。楽しい感情を味わいながら経験したことは、記憶に定着しやすいと思われるのです。

楽しみながら学ぶことは、そう難しくありません。会社に言われてしぶしぶ英語を勉強する場合でさえ「話せるようになったらこんなことができる」とイメージすれば楽しくなりますし、「昨日よりできていること」を確認するだけでもポジティブになれるでしょう。

その要領で、少しずつ知識を蓄積すると、徐々に記憶力自体も上がります。その喜びはさらに知的好奇心を刺激し、別分野への興味の広がりをも促進します。この好循環こそ、脳の成長サイクルなのです。

一方で、「休日も仕事のことで頭がいっぱいで、興味関心のあることに注意を向ける余裕がない」方もいるでしょう。

しかし、過度なプレッシャーは、ストレスとなって海馬で行なわれる「神経新生」=神経細胞が新たに生まれることを阻害する可能性が高い。学習能力が落ちるのみならず、認知症のリスク要因にもなり得るのです。

といっても、オンとオフの切り替えがうまくできない方も多いはず。そこでお勧めなのが、「脳のアイドリング」です。脳の9割を興味関心のあることに向け、1割だけ仕事のことを考えます。

このとき、仕事の内容を細分化してTODOリストに落とし込むことが重要です。仕事に対する漠然とした不安が、頭の中で増大してストレスになっていくからです。ストレス要因とその対処法をハッキリさせれば、自ずと興味関心のあることに集中できるでしょう。

もちろん、ストレスを忘れ去るほどの楽しい趣味があれば、それに越したことはありません。

好奇心を育てる趣味の見つけ方

夢中になれる趣味は、脳にとって最強の味方だといっても、没頭できる趣味がない……。そんな方は、昔楽しんでいたことをもう一度やってみましょう。スポーツでも楽器でも、絵を描くことでも構いません。楽しい記憶が蘇よみがえり、脳が活性化します。

「昔も楽しみを持っていなかった」という方は、友人や配偶者といった親しい人の趣味を一緒に行なうのがお勧め。登山などスキルの要る趣味も、指導者がいれば安心ですし、経験を共有できる楽しさも格別です。

「そんな親しい人も居ない」という方は……旅行か、料理をしてみてはどうでしょう。知らない街の散策は好奇心を刺激しますし、「今度はあの街に行ってみよう!」と、目標を連鎖的につなげていくこともできます。料理も、創造性や段取り力を鍛えられるうえに、最後に美味しく味わえる最高の趣味です。

このように、脳を鍛える方法は、勉強だけに限りません。何かを学ぶこと以前に楽しみ上手であること──そうした「ハッピーな生き方」こそが、脳をいつまでも成長させるのです。

文・瀧靖之(たき・やすゆき)
東北大学教授
1970年生まれ。東北大学大学院医学系研究科博士課程卒業。東北大学加齢医学研究所機能画像医学研究分野教授。脳のMRI画像データベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを研究。これまでに解析した画像は16万人以上。新聞・テレビ出演、一般向け著書も多数。近著『「脳を本気」にさせる究極の勉強法』(文響社)。《取材・構成:林加愛》(『THE21オンライン』2019年3月号より)

提供元・THE21オンライン

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