「50年前に現在の日本を見通していた 経営の神様:松下幸之助」で紹介した松下幸之助「滅びゆく日本をどう救うか」に続いて、ジョン・P・コッター「幸之助論」(金井壽宏監訳、高橋啓訳、ダイヤモンド社)を読んだ。

著者がハーバード・ビジネス・スクールの著名教授であることも興味をそそったが、それ以上におそらく日本人にはない視点が得られるのではとの期待の方が大きかった。その期待は裏切られなかった。

松下幸之助NHKより

20世紀最大の企業経営者

コッター教授は、学部長から松下幸之助記念講座リーダーシップ教授職のオファーがあった際、あまり気乗りがしなかったと述懐している。日本人なら知らない人はいない幸之助だが、リーダーシップ論の権威にもその名は知られてなかった。ところが、「翌日、受け取った資料にしぶしぶ目を通していると、自分が興奮してくるのを感じた。」と指摘。

そして、「コッター教授は、IBMのトム・ワトソン1世でもなく、ヘンリー・フォードでもなく、日本の松下こそ20世紀最大の企業経営者であると主張する。」(1996年6月27日、日経金融新聞)ようになり、序章で以下のように述べる。

松下幸之助の物語は、単なる事業の物語の枠を超えていた。それは途方もない逆境との闘いの生涯であり、幼少期の精神的外傷(トラウマ)から強さを引き出した生涯だった。それは偉大な事業達成にまつわる精神的な基盤についての物語である。それはまた、長じてからも人間はすばらしい成長ができるという物語である。

続いて、「無一文から出発した男が、ついには巨万の富と全国民の信頼を集めるに至ったということを、宿命のほかに、説明できる言葉はあるだろうか」と問いかけ、「だが実際は、説明方法はほかにもあるのだ」とする。

その説明方法については後述する。

幸福に通じる水道哲学

1932年5月5日、幸之助は社員と重役を前に大胆な提言「新使命宣言」を行った。

「夢を語った名経営者:松下幸之助の水道哲学」で紹介した水道哲学について、次のように語った。