かつてヒルトン姉妹やヴィクトリア・ベッカムなどのスーパーモデルを起用し、一世を風靡したブランド「Samantha Thavasa(サマンサタバサ)」が、8期連続の最終赤字に陥っている。主にバッグのブランドとして名を馳せ、10代、20代の女性に圧倒的人気を誇ったブランドが、なぜ経営危機に陥っているのか。アパレル業界に精通する事業再生コンサルタントの河合拓氏に解説してもらった。

スーパーブランドにおけるバッグの価値

 LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)、GUCCI(グッチ)、CHANEL(シャネル)などのスーパーブランドは、なぜバッグを中心としたMD(マーチャンダイジング:商品化計画)を揃えているのか。

 これに多くの消費者は「バッグは男にしてみれば“時計やクルマみたいなもの”で、“いい女度”を上げるファッションのキラーアイテムだから」と答えるだろう。

 しかし、この問いを企業側にすると異なる景色が見えてくる。それは、「毎年の流行に左右されにくく、デザインの当たり外れも少なく破棄損が少ない」ということだ。複雑な工程を経て完成する衣料品と比較し、比較的シンプルなものつくりのフローで長期間、しかも多くがシーズンに左右されないデザインで、期末余剰在庫の償却損計上をアパレル製品ほどやらなくて済むということになる。つまり、企業側にとってみればバッグは、ブランドアイコン的に価格が青天井にもなれば、事業に失敗するリスクも低いということになる。

 例えば、ルイ・ヴィトンの店内に入ってみよう。一番奥のディスプレイに高々と飾られているのが、ブランドアイコンといえるバッグ類だ。そして、立ち位置から見えるショーケースに飾られているのがジュエリー類。手が届き、そして風合いを感じる(触ることができる)のが、雑貨ということになる。

 同店で香水を買うと3万円以上もするが、成分はほとんど水に近いもので原価は恐ろしく低い。しかし、ルイ・ヴィトンの香水を持つということは、あの憧れの「ルイ・ヴィトンの一部」を身にまとっているという価値が、たかが水を3万円という価格に押し上げるわけだ。私もMaison Margiela(メゾン・マルジェラ)でTシャツを見て、5万円という価格に腰が抜けそうになったぐらいだ。

 米国と欧州の文化がうまく混ざってできたのがRalph Lauren(ラルフ・ローレン)であるが、ラルフ・ローレンの収益の多くは、馬のマークのポロシャツとシャツから来ているのは有名な話で、このようにスーパーブランドの収益の多くは消費者が「バッグに対する憧れ」から購買につながる雑貨などで稼いでいるという話もある。したがって、営業利益でトヨタ自動車を抜かしたLVMHグループの利益も、実はブランドアイコンであるカバンからではなく、こうした小物雑貨から来ているのだ。

 このように、スーパーブランドの本家である欧州ブランドにとって「バッグ」というのはブランドを儲かるビジネスたらしめる、極めて重要なキラーアイテムなのである。