夜な夜な狼に姿を変え、人間を襲ってその肉を喰らうというヨーロッパの伝説的モンスター・人狼。中世ヨーロッパには数々の人狼の記録が残っているが、その中でも特に有名なのが「ベートブルクの人狼」こと、ペーター・シュトゥッペ(Peter Stumpp、姓についてはStubbe、Stumpfなど諸説あり)である。ドナルド・トランプ氏の祖先の一人ではないかという噂も流れ、にわかに注目を浴びている。
■ベートブルクの人狼
ペーター・シュトゥッペはドイツ・ケルンの西にあるベートブルクという町の郊外に住んでいた。家族や生まれ年などの確かな記録は残っていない。村の中では豊かな農家で、周囲の人々からも尊敬されるごく普通の農民だったとされる。1580年代には妻に先立たれて独り身となっており、少なくとも二人の子供がいて、その一人はシビル(あるいはベーレ)という名の娘だった。
裁判記録によると、シュトゥッペは12歳の頃から黒魔術に傾倒していたという。ある時、彼は悪魔から狼の皮でできた魔法のベルトを与えられた。そのベルトを身につけると、シュトゥッペはギラギラした目と鋭い牙の生えた大きな口を持つ巨大な体を持つ残忍な狼に変身したという。ベルトの力で人狼となったシュトゥッペは、獣のように羊やヤギを襲ってその血肉を喰らうようになった。そしていつしか、ベートブルク周辺で人間の子供や女性も襲うようになった。
1564~1589年の5年で、シュトゥッペは18人の命を奪ったとされる。犠牲者の多くは子供だった。シュトゥッペは被害者を強姦・殺害した後、その四肢を切り裂いてその肉や内臓を喰らったという。被害者の子供の一人はシュトゥッペの実の息子であったが、彼はその脳も食べたとされる。なお、この息子は娘との近親相姦により生まれた子だという話もある。被害者には二人の妊婦も含まれていたが、彼は胎児を腹から引きずり出し、その心臓を食べたという。
食い殺されてバラバラになった無残な死体は、隠すこともなく畑に打ち捨てられていた。立て続けに起こる残忍な事件に、人々は恐怖におののいた。周辺ではどう猛な狼が目撃されており、襲われたが運良く生き残った少女も大きな狼に襲撃されたと話した。狼を捕まえるべくハンターたちが動き出したが、そう簡単には姿を見せなかった。