「劇団の業務に専念」との誓約書も

 本事案を通じ問題視されているのが、有愛が宝塚歌劇団と取り交わしていたのが業務委託契約であったという点だ。歌劇団に入団するには、劇団付属の宝塚音楽学校で予科1年・本科1年の計2年間の教育を受け、卒業認定と入団式を経て、正式に歌劇団の研究科1年になる。入団後は研究科生と呼ばれ、5年目までは固定給とボーナスが支払われる。その後は1年ごとの業務委託契約へと切り替えられ、有愛さんは昨年に業務委託契約となっていた。遺族の代理人によれば、その契約内容は次のようなもので、「劇団の業務に専念すること」との誓約書も交わされていたという。

・劇団が行うレッスンへの参加や自己鍛錬により技能の向上・容姿の管理を求められる。
・劇団が決定した組所属・出演作品・配役・出演劇場・出演期間などについて一切方針に従わなければならない。
・劇団の定めた稽古に参加し演出家などの指示に従わなければいけない。
・劇団の許諾を得ずに劇団以外で演技・歌唱などを行ってはいけない。

 これについて遺族の代理人は、実質的には労働契約だったと主張している。

 そこで焦点となっているのが、歌劇団の劇団員の位置づけだ。歌劇団はあくまで阪急電鉄の創遊事業本部の一部署であり、独立した一法人ではない。以前、歌劇団は当サイトの取材に対し次の回答を寄せていた。

「宝塚歌劇団の団員は『宝塚歌劇団』という任意団体と雇用契約を結んでいるので、『阪急電鉄の社員』とは言い切れません。ただ『宝塚歌劇団』自体は阪急電鉄創遊事業本部の一部署という扱いであり、『阪急電鉄の社員』という表現はあながち間違えでもない、といったところで明言は避けています」

 もし仮に有愛さんが事実上の阪急電鉄の社員であったということになれば、同社自身の責任となるが、一連の不祥事をめぐり阪急電鉄が表に出て対応にあたった形跡はない。

「内部の過重労働やいじめ、パワハラの実態に加え、劇団員を事実上の労働契約のかたちで自社社員同然の働かせ方をしているにもかかわらず、あたかも個人事業主扱いのタレント契約をしているという事実がバレたことは、歌劇団としては大きな痛手だ。また、歌劇団はあくまで阪急電鉄という会社の一部門なので、阪急電鉄が大手を振って違法な労働形態を継続していたということになる。その点を掘り返されたくないがために阪急電鉄は頑なに表に出てこず、歌劇団が前面に立って対応にあたっているが、不祥事に際して一部門にすぎない歌劇団があたかも独立した一法人のように振る舞っているのは不適切だ」(全国紙記者)